「はぁ!?デート出来ないってどういうことよっ」
明日は久々のトーゴとのデート
別に期待してる訳でも、楽しみな訳でもない
何度も何度もデートに誘うから付き合ってやるだけよ
そんな時に変なアタシなんて見せるなんてプライドが許さないから
シャンプーをいつものから変えたり
肌の整える為にパックしたりしてるだけで
いつもこの美貌を保つ為にやってる事で
アイツなんかの為にやってる訳じゃないんだからっ
そうよ…別に楽しみでもないけど
いきなり明日のデートがダメになったとか聞くと
ちゃんと支度もしてたし、頭にくるじゃないっっ
『本当に済まぬ…紫苑…
儂だって行きたかったんじゃ…でも…高熱が下がらなくて…
昨日仕事で氷の洞窟に行ったんじゃが…その後にトール火山にヘルプに行ったせいか、温度差からか…その後からクシャミやら鼻水やら熱が下がらんのじゃ…』
弱弱しいトーゴの声がウィスから聞こえる。
その声はいつものうるさいくらい元気など全く無く、今にも泣きそうな程の擦れた声で自分の状況を説明してきた。
『折角…仕事が落ち着いてやっと紫苑とデートだったのに…あんまりじゃ…
でも、こんな状態だったら紫苑に移してしまうのも嫌じゃし…
また…治ったら……』
「知らないわよっ!ほんっとうにもうっ
馬鹿でしょっ!アタシとのデート前に風邪引くなんてっ
ほんっとうに信じられないわっ」
『しっ…紫苑っ…そのっ』
「じゃあねっっ!早く治しなさいっっ!!」
トーゴが言う前にさっさと切ってやる
本当にもう馬鹿だわ…あんな辛そうな声しながらウィスしてくるとかっ
い…いえ…別に心配だから怒ってるんじゃないわよっ
単にこのアタシとのデート前に風邪なんて引いた事に怒ってるだけなんだからっっ
そう…怒ってるのよ…アタシはっ
誰か看病してくれてるのかとか…ちゃんと風邪でもご飯食べてるだろうかとか…
薬もちゃんと飲んでるかしらとか心配してる訳じゃないだからねっっ
翌日……
「うう…紫苑が昨日からウィスも拒否しておる…
やっぱりデートをすっぽかしてしまったからだろうか…
これならば…具合が悪くても行った方が良かったかもしれぬ……」
教会に所属している者達が住まう寮の自室にて、一人寝ているトーゴは、ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、昨夜から全く連絡が取れない紫苑の事を思い、泣きそうになりながら唸っていた。
悩みながらぼんやりする意識の中、ふとドアの外が騒がしくなり、ドアがノックされる
「だれ…だ…っ!?」
「邪魔するわよ」
開いたドアの向こうにいたのは……
妖艶としか言いようがない、グラマラスなボディにハイウィズの女性の衣装を纏った、女性となった紫苑が確かにいたのだ。
思いもよらない事であり、更にその姿を見てトーゴは目を見開いたまま固まってしまう。
「ど…どうしたのじゃ…紫苑…その…その姿もじゃが……なんで……」
「見舞いにきただけよ
このアタシとのデートをすっぽかして寝込んでる馬鹿な男を見にくる為にね」
その寮内にいた教会所属のトーゴの仲間達であろうか、トーゴに美女が見舞いに来たとドアの向こうで騒いでいる声は聞こえていていたが、紫苑は気にする事無く扉を閉めて、固まったままのトーゴの前へと足を向けて、寝ているトーゴを見下ろしてやり。
「ほら…ディル君から薬を調合して貰ってきたわ
あの子が作った薬なら、すぐ効くでしょうから飲みなさい」
「儂の為に…貰いに行ってくれたのか…?」
「っ!?ちっ…違うわよっっ
たまたまよっっ!用事があったからついでにアンタのを調合して貰ったのよっ
アンタの為なんかじゃ無いわよっ
早く飲みなさいっっ」
熱っぽく潤んだ瞳で見上げたトーゴは驚いた様に、そして泣きそうな顔でこちらを伺って尋ねてくるのに、思わず顔を赤らめてしまいながらつい怒鳴りつけ、薬を押し付ける。
「でも…どうして女性の姿で来たんじゃ…?」
「これでもアタシって結構ゆーめーじんだから、バレない様にね…
こんな男で美人な男性ハイウィズが教会なんかに尋ねてきたら、アタシだって一発でバレる可能性もあるから、わざわざ性別転換薬で女性で来たのよ」
「そうじゃったのか…いつもの紫苑も勿論美人で綺麗じゃが、女性になると益々美人で綺麗じゃ…本当にこんな美女は見た事無い」
ふわりと熱っぽい瞳で見つめ微笑み、お世辞でもなんでもなく本心から言うトーゴに、紫苑は再び顔を赤らめてしまいそっぽを向くと、入る時に持ってきて机に置いたトレーを持ってベットへと歩み寄る。
「さ…コレ食べてさっさと薬飲んで休みなさい」
無造作に差し出されたトレーに乗っていたのは、暖かな香りを漂わせるミルクリゾットであった。
「これは…紫苑が作ってくれたんじゃろうか…?」
「そうよ?ここに来た時にキッチン借りて作ってきたのよ
なに?アタシが作ったのが食べられ無いっていうの?」
「そんな筈なかろうっ
いや…その…作って貰った事が凄く嬉しくて…」
「前だって一回作ってあげたデショ?ほら…さっさと食べて…不味くは無いわよ」
「…ありがとうなのじゃ…いただきます」
どこか照れた様な紫苑が可愛く思いながら、そっと大切そうにトーゴはリゾットを口へと運ぶ。
「美味しい…」
「当たり前でしょ」
素直なトーゴの反応に、紫苑は食べるその様子さえも可愛くて、つい思わず口許に笑みを浮かべてしまいながらその様子を見守ってやり…
「まだ…熱下がらないわね…
その内ディル君の薬が効くとは思うけど…」
食事を終え、薬を飲んだトーゴは紫苑に言われるままベットへと横になり、その傍らにある椅子に腰を下ろした紫苑は額に手を触れさせて熱の高さを計りながら小さくため息をつき。
「紫苑の手…冷たくて気持ちえぇの…」
「そう?まぁ…アタシの手はアンタと違っていつも冷たいしね…
こうすれば……気持ちいいんじゃない?」
「うむ…冷たくて気持ちいぃ…
紫苑の魔法は本当に心地えぇの…」
紫苑は額に触れさせた手に魔力を少しだけ集中させて、冷気を纏い、トーゴの熱を下げる様にしてやり、その冷たいが暖かな紫苑の魔力を受けて、トーゴは嬉しそうに目を細めてそのまま目を閉じて。
「こうしていてあげるから…寝なさい」
「うむ……好きじゃ……紫苑……」
紫苑の声に誘われる様に、トーゴは小さく呟き、そのまま規則正しい寝息を立てながら眠りへと落ち、その後にはトーゴの額に手を乗せながら真っ赤になっている紫苑がいた。
「本当にアンタは……もう…さっさと治しなさいよねっっ
……好きって…言えたらいいんだけどね……」
意識を手放すその瞬間まで、自分を想ってくれるトーゴに、自分がどれだけ愛されているか、そして自分がどれだけ好きでいるかを更に自覚させられてしまい、小さく呟くと、言葉に出来ない代わりに、そっとその唇へと自分の唇を触れるだけの優しい口付けをしてやり。
静かに…ただ静かに流れていく時に、トーゴは安心しきった様に眠るのであった…
おまけ
「あの…トーゴとはどの様な関係で…?まさか…恋人…とか…?」
「恋人では…ないけど…
そうね…トーゴをアタシが食べてる関係ねw」
「たっ…食べてる関係っっ!!!!」
トーゴが住まう寮に尋ねていった時、応対をしてくれた他の修羅達からの質問に、紫苑は妖艶でそして悪戯っぽい小悪魔の様な微笑みを浮かべて答えるのであった。
翌朝 すっかり体調が良くなったトーゴが、仲間から紫苑との関係を問いただされたのはいう間でもない…
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