「作ったけど…どうしよう かなぁ…」
イシュアは 材料を集めて作ったチョコタルトを箱に詰めた物を
手にして アカデミーの一室で小さく呟いた
兄イクスに食べて貰いたくて作ったのはいいのだが
恋人がいるのに 渡していいのだろうかと悩む
勿論 二人の恋路を邪魔するつもりはない
自分の兄へと想いは抑える事に決めているから…
だけど チョコ位は渡していいだろうと思って作ってはみたが
作った後に 悩んでしまう
「こっそり 兄さん達がいる場所に置いてこようかな…?」
兄と恋人シオンの決定的なシーンを見てから
結局 会いに行っていない…
「うん そうしようっ
…あれ…?」
やっぱり 会うのがなぜか怖くて
メッセージカードを入れて こっそりベンチに置いてこようと思い
思い切り立ちあがると ぐらりと世界が揺れて再び座り込む
「あ…また かぁ…
最近寒かったからなぁ…」
手袋を取り 額に手を当てると かなり熱い
最近 寒い日が続いていたが
泊まる場所が無い為 アカデミーや野宿を繰り返していた事で
風邪をひいてしまったらしい
「まぁ 大丈夫 かな?」
多少はVitもあるし なにより剣士だ
これ位はいつもの事だと思い 気休めに初心者ポーションを飲み
今度はゆっくり立ち上がる
「こんな時 体があんまり強くないって 情けないよね…
剣士なのに…」
元々 支援プリ体質が故に仕方ない事ではあるが
落ち込んだ様に イシュアは小さくため息を吐き出した
「うわぁ…やばいかも…」
アカデミーからアルデバランに転送させて貰ったはいいが
具合が悪かったせいか 転送酔いをしてしまい
着いた場所で膝をつき 暫く蹲ってしまった
「世界が回る…気持ち わるぃ…」
口元を手で覆い なんとか気持ちの悪さをやり過ごす
深く息を吐き出して なんとかその具合の悪さを落ち着かせ立ちあがり
イクス達がよくいる場所をこっそり建物の影から様子を見ると
いい具合に誰もいない
ほっと安心した様に息を吐き出し
イクスがよく座るベンチに近寄ると
『イクス兄さんへ』
と 書いたメッセージカードを添えてチョコの箱を置く
そこで イシュアの意識は途切れた
『イクス イシュアくんが倒れている』
そう イクスにディルから緊急のギルドチャットが入ったのは
それから暫く立ってからであった…
「イシュアっ!!」
「静かに イクス…今は眠っている」
勢い良く宿屋の聞いていた部屋のドアを開けたイクスを
ディルは口元に人差し指を当てて 静かにさせる
「す 済まない…」
「まぁ 仕方ないけど…
ちょっと熱が高いけど 2、3日もすれば元気になるだろう」
「万能薬を飲ませれば…」
「あれはそこそこの健康体ならばいいんだが、弱り切ってる者には強いんだよ…
逆に体を壊しかねない」
「弱り切ってるって…」
申し訳なさそうにするイクスに仕方ないと軽く息を吐き出し
クリエイターとして 医療にも多少詳しいディルは
おおよその回復時期を伝え
以前風邪の時 リョウが万能薬を飲んで回復したのを思い出し
万能薬を口にするが
ディルは静かに首を横に振り ベットに眠るイシュアを振り返り
「イクス…ヒールをイシュアくんに…
体が傷だらけで 傷口が化のうしてる所もある…
熱は下げられないが 体の傷はヒールで癒せる…」
「っ…ヒールっ!!」
ベットに眠るイシュアを見て
イクスは声を一瞬詰まらせ 手をイシュアにかざすと
温かな光を放つヒールを唱える
そこに眠る久々に見た弟は
随分とやつれていて
白い頬は熱で赤くなり 苦しそうに荒く息を吐き出している
「多分 かなり無理をしたのと…
この寒さにやられたんだろうね…
今はとにかく体を休ませてやる事だ…
一日三回 この薬を飲ませるんだ。
私が作った特別なポーションだ…ちょっと苦いけど
熱を下げて 体力を回復させてくれる。
後の看病は任せたよ?
行こう ルティ」
「はい…」
グッと拳を握りしめ やるせない顔でイシュアを見下ろすイクスに
ディルは薄い緑がかった不思議な色のポーションの瓶を渡し
説明すると ディルの助手の様に荷物を持って傍に控えていたルティに
声を掛けて 共に部屋を出てゆき…
「…ごめんな イシュア…」
「別にお前のせいじゃないだろう…」
ベットの傍らに置いた椅子に腰かけ
額に濡らしたタオルを押してやりながら
苦しげなイシュアに謝罪するイクスの背後から声が掛かり
「いつの間にいたんだ…」
「ついさっきだよ…
それよか こうやって倒れたのは本人の責任であって
お前の責任じゃない
だからお前が気に病む事はないだろうが」
「それはそうだが…
そんな事 分かってはいる…
それでもオレは イシュアがこんなになるまで
気付いてやれなかった…
護るって…絶対死なせない そうこいつが冒険者になった時に
誓ったのに…
もう少しで 失う所だったかもしれない…
そう思うと 怖くて…」
何度となく 持ちなれない剣を握り
必死で戦ってきたのだろう…
ソードマンのグローブをしていても
傷だられの小さな手をそっと握り
自分の頬にその手を当てて イクスは弱弱しく項垂れる
その姿に シオンは激しい怒りをイシュアに覚えた
そして 嫉妬…
俺以外の奴が こんなにもイクスから心配されている…
「シオン ちょっとイシュアを見ててくれ
水替えてくる…」
「あ あぁ…わかった…」
殺気めいた感情に支配されかけたシオンに
イクスから声が掛かり 我に返ったシオンはなんとか返事を返し
部屋から送り出す
「ぅ…っ…はぁっ…ん…ぁ …シオ…ン さん…?」
荒い息を吐き出しながら ふっと薄くイシュアの目が開き
顔を横にして 涙で潤んだ熱っぽい瞳がシオンを捉えると
小さく名を呼ぶ
「っ!貴様っ…
こんなにイクスを心配させて嬉しいかっ?
なんでココに来やがった…どっかの森の中でも野たれ死ねば
まだよかったのに…
それとも 俺が殺してやろうか…?
イクスを心配させ 悲しませるのは
幾らあいつの弟だと言っても許さねぇぞ…」
ひやりとした冷たい爪先をイシュアの喉仏に翳す
この細い首ならば手刀でも十分であろう
病人相手に酷い事を言っている自覚はる
何より相手は恋人の弟…
それでも殺意と怒りは収まらなかった
どんな文句や言い訳を言ってくるか…
不条理な事への怒りを向けてくるか
それとも泣くか…
そう シオンは思っていたのだが
イシュアはその怒りを受け止め
苦しそうな顔で 弱弱しくも笑みを浮かべて笑い
今にも殺しそうなシオンの手に自分の指先を触れさせる
「ごめんなさい…もう ココには来ません…
心配 かけるつもり なかった…だけど…
チョコ…あげたくて…
おれの 不注意で…ご迷惑 かけて…
でも にいさんの恋人が シオンさんで よかった…
おれは まもる力 ないから…
にいさん を よろしく お願い します…
ありがとう ござ います…」
そのままイシュアは再び眠りにつき
シオンは 目を見開いたまま 思わず後ずさる
(なんなんだ こいつは…?
なんで 礼なんて…?)
「待たせたな シオン」
「あ…いや 別に…」
あまりにも予想していなかった答えに
シオンの思考は少々混乱しかけたが
イクスの登場でなんとか平静を装い
隣のベットに腰掛けると
そのサイドテーブルに置いてあるチョコに目が行き
(そういや チョコ渡しに来たって言ってたな…)
くしゃりと自分の頭を掻いて ため息を吐き出し
「イクス お前の弟はお前にチョコを持ってきた様だぞ?」
「なんだと?…ほんとだ…」
シオンに言われ振りかえった先にあったチョコに
『イクス兄さんへ』とメッセージカードが添えられていたのに
イクスは泣きそうな顔で笑みを浮かべて
そのチョコの箱を手にとって
シオンの隣に腰を下ろし
「イシュア 料理得意なんだよ
昔 ガキの頃だけど料理を作る人になりたいって言ってたしな…
ほら 上手いぜ?」
「あぁ…」
箱の中に入っていた 一口大のチョコタルトを取り出し
ひとつシオンにやると 自分も口に入れて
「うん やっぱ美味いな…
元気になったら なんか菓子でも買ってやろうかな…」
「俺へのバレンタインのチョコは?」
「お前には………ちゃんとあるから当日な?」
まぁ それならいいか…と シオンは頷き
隣にいるイクスの肩をそっと抱き寄せる
静かな そしてそれぞれの初めての夜が
ゆっくり深けてゆく…
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COMMENT
No Title
早く元気になるんだぞ~(´・ω・`)
お兄さん以外の人にチョコをあげられる日は来るのかしら・・・?そのときお兄さんは祝ってくれるのかしら・・・?^m^
もちきん様
でも実は、一番大変な目にこれから合うキャラだったりするんで、どうなんだろう…
イシュアは、兄さん以外が好きになる事がるのかさえ良く分かりませんが、兄さんはまず、弟の相手にふさわしいかためしそうです(笑)
カキコ有難うございますw
No Title
イシュアに好きな人が出来た場合…相手の事を真っ先に探りに行ってイシュアの事が本気で好きなのかどういう性格なのか探ると思います。気付かれてイシュアに嫌われそうな気もしますが…
東雲様
いやぁ 兄さんがそれをしてくれたら、益々自分は大事にされているんだって思って、イシュアはそれはそれは兄さんがもっと大好きになりそうな気もしますが☆
なんか 兄さんが理想ってより、ずーと兄さんが大好きで恋人が案外出来ないままいっちゃいそうだ…
でも それがイシュアにとっての幸せなんですよねぇ♪
さすがに、3Pって訳にもシオンはいかないだろうし(ぁ
本当に愛されてて嬉しい限りですw
有難うございます☆