ある日の 宵闇のギルドハウスにて……
「お おじゃましますっっ!!ディルさっ…!!」
そのドアノブに手を掛けて、ジャックが思い切り開けた所に飛び込んできた光景は……
「ああっ!ボクの可愛いイシュアっ!そんな泣き顔もまた、あまりに可愛くてボクの心を捕えて離さなくなるよっ!」
「にゃぎゃぁぁぁぁっっっ!!!!」
「てめぇっ!!一体何度不法侵入すりゃあ気がすむんだっっ!!
どっか行きやがれっ!!ワープポータルっっ」
青く長い髪のアクビが青い髪のソードマン…イシュアを抱きしめようと追いかけ、イシュアは泣きながら室内を逃げ回り、ブチ切れた同じく青い髪のアクビ…イクスが叫びながらポータルを開き、追いかけていたアクビを蹴ってポータルへと投げると、すぐ傍にいたジャックは、そのまま一緒にポータルの中へと消えてしまったのだった…
「今…ジャックさんがいた様な…」
「ナイスなのだよ イクス」
ポータルが消えた跡を見ながら、少し離れた場所に退避していたルティは小さく呟き、しっかりその姿を見ていたディルはイクスに向かって小さく親指を立てて。
「あたた…ココは一体…」
「くっ…まずはソコをどきたまえ…」
「あっ!す 済みませんっっ」
いきなりポータルへ巻き込まれ、ぶつかった衝撃で頭を打ったらしいジャックは、その頭をさすりながら回りを見渡すと、自分の下から苦しげな声が聞こえてきて。
自分が誰かの上に乗っている事に気付くと、慌てててその場を飛びのき。
「うむ…義兄さんは中々に手強いな…まぁしかし、愛する弟の相手を試すのは当たり前の事だ。
しっかりこの試練を受け、義兄さんに認めて貰わねばなるまい。
ボクの可愛いイシュア…待っていてくれ
きっとボクはこの試練を乗り越え、君を花嫁へと迎えにいこうっ!
………ところで、君は誰だい?」
身を起こしたカルニフィは自分の身を整えると、空に向かってガッツポーズをして、そこにはいないイシュアへと誓いの言葉をひとしきり口にした後、やっとその隣にいる存在に気付き、相手を見ながら訪ねて。
「あ…え っと…ホワイトスミスのジャックといいます…
オレはその…ディルさんに会いに来て、ドアを開けた途端貴方にぶつかって…」
いきなり話の先を自分へと向けられ、驚き言葉に詰まらせながらジャックは恐る恐る答えて。
「ふむ…なんとどんくさい…
だが、ボクの試練に巻き込まれてしまうとは…済まなかったな
ボクはアークビショップのカルニフィと言う」
(あれ…?)
どこまでも耽美でエラそうな口調のカルニフィが、上から目線ではあるものの、あっさりと謝罪した事に軽く驚きジャックは思わずマジマジと見る。
(もしかして悪い人じゃない?)
差し出された手を握手し、整ったその顔をしっかり見つめた瞬間、いきなり手首を掴まれ、思い切りカルニフィの後ろに投げ飛ばされるかの様に前のめりになり…その瞬間…
「ジュディックスっっ!!」
ジャックの背後で激しい光とけたたましいモンスターの叫び声が上がったのに、ジャックは目を見開く。
「え…?」
「どうも義兄さんはニブルにボク達を寄越しだ様だな…」
「ええぇっっ!?」
少しだけ緊迫した声に、よくよく辺りを見れば暗黒の空と邪悪な空気が漂っており、ここがニブルヘイムだということに今更気づき、思わず情けない声をジャックは上げてしまう。
「ジャック君…君は戦えるか…?」
「え…えと…は はいっ」
「ならばタゲを取ってくれ…大丈夫…絶対に君を死なせたりしない。
支援を切らせたりなどしないので、安心して欲しい。
ボクが…全て滅してくれる…
君を必ず守るから、安心して前で戦ってくれ」
グランドクロスを手にしたカルニフィは倒れたジャックの手を握り立ち上がらせると、長い髪を漆黒の風に靡かせ、自信に満ち溢れ、それでもそれが嫌味でもなく、絶対に大丈夫だと確信させる程の姿に、ジャックは目を見開き、そして思わず笑みを浮かべる。
「よろしくお願いしますっ」
「まかせろっ!!」
武器を手にしたジャックは深く頭を下げると、敵に向かって走り出し、素早くカルニフィは支援の為に手を伸ばし…そして…
暫くして、美しき退魔の歌声と眩い光がその周辺を包み込んだのであった……
「疲れてはいないか?」
「はい 大丈夫です。カルニフィさんこそ疲れてませんか?」
辺り一面の敵を全て滅し、ワープポータルでプロへと戻ってきた二人は、一息入れる為にカフェにてお茶をしながら、互いの様子を気にして。
「ボクはこれくらい大丈夫だ。君に怪我が無くてなによりだ」
「っ…!?」
フッとカルニフィは微笑み、手の伸ばすとジャックの頬を優しく労わる様に撫でてやる。
その行為にジャックは思わず顔を赤らめてしまい、体を硬直させてしまい。
「君は戦いのセンスはいいのだが、かなり無茶な成長をしてきたのか、無駄が多く、そして危なっかしい…
よって、ボクの手が空いている時は君の狩りに着いて行きたい。
どうだろうか?」
「え………?」
思いがけない言葉に、ジャックは大きな目を更に大きくさせてカルニフィを見つめる。
「嫌だろうか?
ボクとしてはどうも、君が心配でならないのだ…」
「い いえ…嫌とかじゃなくて…
なんで…俺なんかを…?」
「ふむ…なんというか…危なっかしいので見ていられないというか…
このボクが一緒にというのだから、君は嫌でなければ、従えばいいのだっ」
「は はいっっ」
一体なぜそんな事を言ってくれるのだろうと、さっぱり分からないジャックは思わず聞くも、カルニフィ自身なぜそう思うのかはっきりした答えは無く、胸を張って指を指してくるカルニフィにジャックは背筋を伸ばし、大きな声で返事をして。
それから暫く話をした後、カルニフィは教会に呼ばれたと、テーブルの上に連絡先のウィス番号を書いた紙と二人分のお茶の代金を置いて去ってしまった。
ジャックは未だその席でぼんやりと番号を書かれた紙を見ていた。
「カルニフィさん…か…」
つい先ほどまでの彼の姿を思い浮かべる。
長い髪を靡かせて、戦場にいるカルニフィは自信に満ち溢れ、そして恰好良かった。
支援の腕も確かであり、自分には何一つ怪我が残る事も無く、ニブルにいた敵を滅する時の神憑り的な美しさもまた、様々と目に焼き付いている。
「かっこ…よかったな…」
ふと 胸が高鳴る。
そして、その姿を思い浮かべれば顔が赤くなる…
ディルを前にした時と同じ様な…違う様なそんな胸が締め付けられる高鳴りに、段々ジャックは訳が分からなくなって頭を抱える。
「なんだろぉ…このドキドキ…ディルさんと同じなら…憧れのはず…はず…」
憧れと口にすると、なぜだかもっと切なく胸が締め付けられて、困惑の表情を浮かべて。
これが恋だと気付くのは もう少しだけ先のお話…
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