「だいすきっ!にいさんっ!」
「オレも好きだよ…イシュア…」
抱きついた僕を兄さんは抱きしめて
そして額にそっと口づける…
兄さんの赤い瞳が僕は大好きで じっと顔の見つめて
照れた様に笑いながら 兄さんは僕の頭を撫でてくれて…
幼い僕は そんな幸せが続くと思っていた。
でも兄はそれから暫くして プリーストになる為の修行に
出されてしまった…
雪が舞う町へと父と共に去っていくその背中…
けして兄は プリになりたくなんてなかったのを知っている。
それでも長男として その道に進んだ…
そんな兄の背中はあまりにも切なくて…
僕は兄を護りたいと思った…
そして
胸の奥に芽生えた…いや 気付いた…
兄 イクスに恋していた事を…
あれから おれも冒険者となった
両親からも 支援プリーストとして素質があると言われていたけど
そして…兄さんも 危険が少ない支援を望んでいたのは
知っていたけど…
おれはソードマンになった
兄さんを護る為に 献身クルセイダーになる為に…
勿論 兄さんから散々怒られた…
おれ自身 前衛向きでは無い事は分かっていたけど
兄さんをおれが護りたかったんだ…
その盾として…
「くっ…いたぁ…」
フェイヨンの森の中 ウルフを狩っていたおれは
ウルフ達に一気に襲われてしまい
なんとか絶え絶えでハエで飛んだ所で
裂かれた腕などを止血して 初心者ポーションを口にする。
至る所が痛い…
剣士をするには あまりもおれは細くて 頼りない
そう、剣士の転職場の人達からも言われていた…
プリーストのヒールがあれば癒される体中の傷も
その力が無いので 初心者がアカデミーで報酬として
貰えるポーションだけ
体力を回復させるのには役に立つが
あまり傷までは癒してくれない…
兄には 背伸びした狩り場には行ってないと伝えてはいるが
実際は 結構無茶をしているのは分かっている
早く兄の隣に立ちたい…
そんな思いもあったが
それ以上に 兄はおれの兄であって
恋人にはおれはなれない…
それを分かってしまったから…
アルデバランの街中の裏手…
兄さん達のギルドの溜まり場から少し離れた
建物の裏…
そこで…
『シオンっ…こんな所で…っ』
『んな顔するから…観念しろよ…』
『訳わかんねっ…!んっ…』
同じギルドの兄の相方のアサシンクロス…シオンさん…
壁に兄を押さえ付け その指を顎に掛けて
そして…赤くなりながら嫌がる兄の唇を塞ぎ…
その時の兄の顔は なんとも言えない艶っぽさで
おれは シオンさんが兄の大切な人だって
恋人だって 分かったんだ…
あれから 兄にも会ってないし
兄のたまり場にも行ってない…
胸が苦しくて苦しくて…
でも おれじゃあ無理だから
隣にいるのはおれじゃ 無理だから…
それでも シオンさんなら兄を護ってくれる
だから 大丈夫…
兄さんは幸せでいれる…
そう 自分に言い聞かせて
兄を愛していると言う想いを内に秘めて
いままでの様に笑える様に
そう 強い心を手に入れよう
だって 兄さんの弟だっていう関係は
永遠の物だから…
「さて…もうちょっと頑張ろうかな…あれ?」
なんとか止血も終わり、
再び剣を持ち直して立ちあがったおれは
空を見上げる。
薄曇の空から 白い雪が舞い落ちてきて おれの手に触れて溶ける
静かに振る雪
まるであの日の様な…
白い花の様な雪が降る空を見上げ
軽くため息をつく
「こんな中で寝たら凍死するかもな…
しょうがない…今日はアカデミーのどっかの教室で寝ようかな」
ちいさく呟き 雪の中をアカデミーに転送してくれる町まで
歩き始める
今度 こっそり兄を見に行こう…
やっぱり会えない方が辛いもんね…
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