「今日も結構怪我しちゃったねぇ…あんまり無理な狩場に行かないようにって言ってたのに…」
宿部屋にある風呂にて、小さなライの背中に手を翳し、至る所にある小さな傷を治してやりながら、双月は小さくぼやく。
「そんな無茶な事してねぇよっ
ちゃんと無事に帰ってきてるだろっ」
傷を治された後、丁寧にタオルで洗われながら、ライは幼い顔を歪めて唇を尖らせながら反抗してきて、双月は小さくため息を漏らす。
「僕はライの事が心配なんだよ…」
「分かってるよ…次からはそんな怪我しねぇようにするから…」
心配そうに翠の瞳を揺らす双月の表情に思わずライは口ごもり、小さく気を付ける事を口にして。
「蝶の羽にハエの羽と…スピードポーションと回復剤に…装備もちゃんと着けてね?
武器や盾はちゃんと持った?」
「あ~…もうっ!そんくらいちゃんと全部用意出来るって!」
翌朝 朝食を食べたライが狩りに出かける支度をしていると、いつもの事であるが双月が道具袋に必要な道具類を用意して、小さな子供に言い聞かせる様に尋ねて来る様子に、ライは面倒くさそうに声を上げて。
「くっそ~…早く色んなのを自分で買って揃える様になってやるっ」
「はいはい 無理はしないんだよ~」
「くっそ~…いいなっ双月!こないだみたいに、姿消して僕の後着けてくんじゃねぇぞっ」
どれだけ声を荒げて叫んでも、双月はにこやかなに笑いながらライの頭を撫でて、その手をバッと振り払うと、道具袋を握りしめ、そのまま言い捨てると急いでライは宿屋を飛び出していった。
「全く…双月の過保護にも困ったもんだ…
まぁ…仕方ねぇけど…」
完全に心配性の父親となってしまった双月に、思わずライはため息を吐き出すが、自分との出会いや双月が本当に姿を見せた事件の事を考えれば、それは仕方がない事だと納得してしまう。
「そういや…双月って誰かからこうして、何か貰った事あるのかな…?」
ライの身に着けている装備や武器、消耗品の殆どは双月から貰った物である。
色々な場所に旅をする事もあり、安定した狩りが出来ないので、双月がしっかりと資金が貯まるまでは…と、ライに現在必要な物は揃えてくれているが、自分の本来の正体の為にずっと一人だったらしい双月は、こうして誰かから何かを貰ったりとかないんじゃないだろうか…
その考えに辿り着いたライは、ふっとその唇に笑みを浮かべ、元気よく本日の狩場へと走っていった。
それから数日後…
「双月 コレやる…」
「え…?」
食事も終えた宿屋で、道具類を整理していた双月に向かってライは手にしていた物を投げる。
流れる様な動きでそれを受け取った双月は、思わずその手にした物に目を丸くする。
「これ…ダマスカス?それも風属性の…」
「咄嗟の時の盾としてでも使えよ?」
「ライ…高かったんじゃ…」
「初めて稼いだ金で買ったんだ…常に持っとかないと承知しねぇからな?」
「…ほんとにもぉ…この子は……ありがとう…」
真新しいダマスカスを手にして驚く双月に、ライは無愛想でも口元に笑みを浮かべて指を指してはっきりと告げ。
ライからの自分へと深い愛情をそこに感じた双月は、その言葉に思わず嬉しさから涙を浮かべながら、ライをしっかりと抱きしめてやり……
現在………
「髪のゴムもだけど、ダマもちゃっかり持ってるって…本当に物持ちいいね…双月」
「そりゃあねぇ…本当に嬉しかったんだもん。
初めて貯めて稼いだお金で、自分のではなくて僕のを買ってくれるなんて…
こんなに幸せな事はないよ?」
ライの家で、武器の手入れをしていた双月の手元を見たライは、少々呆れた様な声を上げるが、それに双月は嬉しそうな笑みを浮かべて答え。
「今ではすっかりライの方がお金持ちになっちゃったから、僕が買ってあげる事も無くなっちゃったけどね?」
「昔は双月が色々買ってくれたから、今は僕が双月に買ってあげるんだよ~
それに双月がお金無いのは、飲みすぎだからだと思うけどなぁ…」
「あはは 年寄の楽しみの一つなんだから、許してよ」
「本当にもう…あんまり飲むんじゃないよ?
でも…まだ持っててくれて嬉しいよ…双月…」
「ライ…んっ…」
背後から抱きしめられながら楽しげに笑う双月に、ライは嬉しそうに微笑み、ダマを手にする双月の手に自分の手を重ねて、振り返る双月の唇にそっと自分の唇を重ねた…
今度は恋人として
何を君に送ろうか……
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