「はぅ~ 兄さんとシオンさん可愛い~」
「可愛いとか言うなっ」
「…いい加減離せ……」
ディルの作った薬で5歳児になったイクスとシオンを抱きしめたイシュアは、腕の中で抵抗する二人をここぞとばかり抱きしめ、満面の笑みを浮かべていた。
勿論 イクスもシオンも必死に腕から逃れようとするが、5歳児のひ弱な力では、それすらも難しい。
「ディルさん 可愛いです…すっごく可愛いです…
はぁ…離したくない…」
「なんか複雑な気分なのだよ…」
ルティもまた 膝にディルを乗せて、後からしっかり抱きしめてながら、柔らかな髪に頬を寄せて嬉しそうにため息をつき、ディルはされるがままに複雑そうな顔をして。
散々抱きしめられたり、抱き上げられたりした一時間が終わり、残念そうなイシュアとルティと、苦虫を噛み潰した様な顔のイクスとシオンがいた…
後日…
「なぁディル…子供に戻る薬 まだあるか?」
リビングで一人 新聞を読みながらお茶を飲んでいたディルに唐突にイクスが聞いてきた。
「…まぁ あるが…なんでだ?」
訝しげに新聞から顔を上げたディルはイクスに尋ねる。
「イシュアに飲ませる……」
「……」
真面目な顔をして言ったイクスに、暫くイクスを見つめたままだったディルはおもむろに立ちあがった。
「ただいまです~」
「今 戻りました」
二人で出かけていたイシュアとルティは元気よく仮宿のドアを開け入ってくる。
「あぁ お帰り。怪我とか変な奴に声掛けられなかったか?」
「うん 大丈夫だよ」
丁度カウンターでお茶の準備をしていたイクスは、駆け寄ってきたイシュアの頭を撫でてやりながら大丈夫だったか気遣い、苦笑しながらもイシュアは頷き。
「ルティは何もされてないか?」
「はい 勿論です」
椅子に座っていたディルもまた、傍に来たルティの細い腰を抱き寄せて様子を伺い。
「丁度お茶入れるトコだけど お前達も飲むか?」
「うんっ」
「はいっ お願いします」
イシュアの額に口づけをしてやってから体を離し、湯が沸いた事を確認して二人に尋ねると、二人は元気よく答え、素直にテーブルにつく。
そんなイシュアとルティの様子を見て、イクスとディルはお互いに意味有り気に視線を合わせて。
「ほら…熱いから気を付けろよ?」
イクスが二人の前に出したのは、甘い香りがする暖かなミルクティーであった。
二人は礼を言って嬉しそうに口にカップを運ぶ。
その二人を見つめるイクスとディルの唇にうっすら笑みが浮かんでいた。
「兄さん とっても美味しかったです」
「有難うございます イクスさんっ」
子供の二人に向けて ミルクと蜂蜜で甘くしたミルクティーを飲みほした二人は、嬉しそうにイクスに礼を告げ、そのまま二人で狩りに行ったドロップ品を袋から出してテーブルに並べていた時…
「あ…れっ?」
「わわっ!!」
不意に少しの息苦しさと不思議な感覚に襲われたイシュアとルティは驚いた様な声を上げ。
いきなり座っていた椅子やテーブルが大きく見える事に慌て、互いを見た瞬間…
「「あっ―――っっ!?」」
驚きと同時の悲鳴がその部屋中に響き渡った。
肩まで伸びる 少しだけくせのある青い髪に大きな青い瞳。
ぷにぷにした柔らかそうな赤く染まった頬。
白い少しだけ大きなTシャツに短い半ズボン。
小さな6歳位のイシュアがそこにいた。
そしてルティは 腰下まである長く下ろした白い雪色の髪。
病的に白い柔らかな肌。
どこか陰りのある 灰色に近い色素の無い瞳。
服は真っ白なワンピースの様な服を着ていた。
「……兄さん?あの…もしかして……」
「……イシュア…かわいぃぃっ!!!」
自身の姿に思わず固まり、そしてこの姿になった事に自分達に薬を盛ったのが、兄イクスだと分かると、おそるおそるイクスを見るが、イクスはいきなりイシュアを両手で抱き上げ、そのまま嬉しそうに抱きしめてしまう。
「ちょっ…!兄さんっ!?」
「この大きさだと5歳じゃなくて6、7歳かな?
そっか~ オレがいなくなった後、髪伸ばしてたんだな~
可愛いぜっ イシュアっ」
5歳の時に離れてしまった為、その後のイシュアがどんな成長を遂げたか知らないイクスは、見た事の無い年齢のイシュアを抱き上げ、マジマジと楽しげに見つめる。
イシュアは真っ赤になりながらジタバタと暴れるが、勿論敵う筈もなく、イクスの手の中でされるがままになってしまう。
「……ディルさん…これ この前まで作ってた薬ですよね?」
「…あぁ…どうしても ルティの子供の頃の姿が見たくて…」
そんな二人とは対照的に、ルティは小さくなった姿のままでディルを見上げ、静かに尋ねると、少し申し訳なさそうにディルが答えて。
「まぁ…ボクもディルさんの子供の頃を見たのでいいんですが…
でも ボクの場合、年齢が分からないから…この姿は…ルティエで捨てられてた時の格好ですね…」
「え…?」
軽くため息をついたルティは笑みを浮かべて自分の姿を改めて見て説明し、その言葉にディルは軽く驚き。
「ボクはこの姿でルティエに捨てられてて…そこからの記憶しかないんです…
その前はどこにいたのか…なんで こんな格好してたのか…」
真っ白な服は、どこか無機質で実験体が着る様な服であり、自分がどこの誰なのか分からないルティは不安気に瞳を揺らして俯く。
「きっと…ルティは天使だったのだ…
雲の上から落ちてきてしまったから 記憶がないのだ。
だから そんな格好なのだよ…」
そう言いながら、ディルはルティの脇に手を差し込み抱き上げると、腕に座らせる様に抱きしめて、顔の覗き込む。
「な 何言ってるんですか…
天使なんて…そんな…」
「可愛いのだよ ルティ」
真顔で言われた言葉に、かぁっと顔を赤らめさせながら思わず俯いてうろたえるルティの顎に指を添えて顔を上げさせてやり。
「……なんだこのちまいのは……」
そんな中 ガチャリとドアが開き、帰ってきたシオンは、目の前にいるイクスが抱き上げている小さなイシュアを見て目を潜める。
「シ シオンさん…」
「シオン見てみろよ~
小さいイシュアだぜ?可愛いだろっ」
イクスに抱きあげられているせいか、不機嫌そうな顔のシオンにイシュアは怯えた様に顔を青ざめるが、そんなシオンを無視するかの様に、腕に抱いたイシュアをシオンに近づけて、嬉しそうに同意を求める。
「…イクスは俺のだからな…」
「てめぇ 子供相手に何言ってやがる…」
近づいてきたイクスを横から抱きしめたシオンはイシュアを睨みながらぼそりと言うと、イクスがシオンを睨みつける。
「に にいさ…」
「よ~しっ このまま夕飯の買い物いくぞ~」
「えぇっ!?」
「じゃあ暫く留守にすっから 後は宜しくな?ディル」
シオンの殺気に涙目になったイシュアは、下ろして欲しいと言う前にいきなりイクスから出された提案に驚くも、抱き上げられたままでは何も出来ず、ポータルを出されてしまい。
イクスは留守をディルに頼むと、シオンとイシュアを連れてポータルに消えてしまった。
「ルティ…」
「はい?っ!?んっ…!」
ドタバタとそのまま消えてしまった3人を呆然と見送っていたルティは、不意に名前を呼ばれて振り返ると、抱き上げたままディルがそのまま唇を塞ぎ。
「っ…ぅ…んっ…」
驚いて目を見開いてしまうが、小さな唇を割り、舌を差し入れ絡められてしまうと、背中がジンっと震え、目を閉じてその甘い口づけをいつもの様に受け取り。
「ふ ぁっ……」
「成程…反応は本来の年齢のままなのだな…」
「はい?」
優しく、全身が痺れる様な口づけを与えられ、甘い吐息を漏らしながら唇を離したディルを見るルティは、その相手から告げられた言葉に目を再び見開いてしまう。
「ルティ 部屋でじっくり反応を見てみたい。
なので 覚悟するのだよ」
「え…?えぇぇ?いやぁぁぁっっ!!」
一体これからディルが何をしようとしているか察したルティは、真面目な顔で告げるディルの言葉に青ざめて、思わず逃げようとするが、腕の中に抱きあげられた体は逃げる事など出来ず、そのまま切ない悲鳴と共に部屋へと連れて込まれてしまい。
「やっぱり人が多いな…」
「に 兄さん…おれ 買い物の邪魔になっちゃう…」
プロンテラの大安売り市に来たイクス一向は、その人込みに顔を顰め、イクスの腕に抱かれたイシュアは、申し訳なさそうに声を掛ける。
「あぁ 心配ない…ほらっ こうすれば大丈夫だっ」
「に にいさんっ!?」
「イクスっ!!」
心配そうな、申し訳なさそうなイシュアにイクスは笑顔で答え、脇に手を入れて抱き上げると、いきなりシオンの肩にイシュアを座らせてしまい、イシュアとシオンは同時に驚いた声を上げる。
「こうやりゃあ この人込みでも大丈夫だし オレの手も自由に使える。それにイシュアも高い所から眺められるしなっ
なんか 親子みたいでいいじゃねぇか」
「あ あぅ……」
「……暴れるんじゃねぇぞ?暴れたら落とすからな…」
「は はいっ!」
驚く2人を余所に、イクスは機嫌良さそうな笑顔で答え、そのまま露店の市を見てゆく。その後に付きながら、シオンはうろたえるイシュアにドスの聞いた声で静かに告げると、イシュアは殆ど泣きそうになりながら頷き、振り落とされない様に、肩車をしてくれるシオンの頭にそっと自分の手を添えて。
「え えと…」
「…イクスが嬉しそうだからいい…」
「…はい…そうですね…」
このままで本当にいいのか…そう 疑問を投げかける前に、シオンは小さく答え、その答えにイシュアは目の前にいるイクスを見下ろし、いつもより楽しげな様子に思わず頬を緩ませて。
今まで見た事もない 高い風景。
見下ろすイクスとシオンの頭…
文句を言いながらも、シオンが自分を振り落とさない様に気遣ってくれるのが良く分かり、イシュアは幸せそうな笑みを浮かべる。
(兄さんとシオンさんの子供だったらよかったな…)
イクスが母親でシオンが父親…
きっと 幸せな家庭が築けるだろう…
「…お父さん……」
「誰が父さんだっ」
「ご ごめんなさいっ!!」
思い描いていた事が、ふと口に出てしまい、それを聞き付けたシオンが不機嫌そうに答え、慌ててイシュアは謝罪する。
それでもシオンはイシュアを下ろす事なく、肩車のままでいてくれたのだった…
結局 ディルがルティとイシュア用に作った薬は丸一日効果があり、二人が元に戻ったのは、翌日の事であった…
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