イクスの退院祝いと、リジェクトが新たにメンバーに加わったお祝のパーティーが賑やかに過ぎ、怪我したばかりのイクスがシオンと共に風呂に行った隙に、イシュアはそっとハウスから抜け出し、少し離れた暗がりで足を止める。
「いるんでしょう?お父さん お母さん…」
そう 暗闇に向かって呼びかけたイシュアに、闇がそっと動く。
「イシュア…」
「兄さんを手助けしてくれたんですね?有難うございます」
闇の中から聞こえてきた声に、イシュアは頭を下げて礼を言う。
「気付いて…?」
「兄さんから…お父さん達の力を感じました…
おれがまだ冒険者になる前…何度となく病気で生死をさ迷った時、こっそりヒールやサンクチュアリを掛けてくれてたの…感じてたから…
その時の感覚が兄さんに残ってて…
だから…きっとお父さん達が助けに行ってくれたんだって思いました」
「…お前は誰よりも感覚が鋭かったからな…イクシリア…いや、イクスの様に様々な物を視る事や感じる事が出来る特殊な目は持ってないが、誰より相手の感情や感覚を感じる能力は鋭い…
だから、プリースト向きだと思っていた…」
「貴方達の思い通りにならなくてごめんなさい…
でもおれは…」
「いや…お前は剣士で良かったと思っている」
「え?」
戸惑う様な女性の声に、イシュアは静かに気付いた理由を口にすると、今度は太い男性の声で納得した様にイシュアとイクスの秀でた能力を理解していたのか、言葉にして。
一族、両親達がプリーストを望んでいた事は十分知っていたイシュアは思わず謝罪をし、それでも後悔はしてないと口にしようとした時、男性…父親から発せられた言葉に、イシュア自身が驚き。
「確かにクルセイダーになる事も、お前の体に大きな負担になるだろう…だが、プリーストになれば、お前の意思に関係なく、結界一族としての任務に就く事が決まっていた。
そうなれば、どれだけその弱い体に負担が掛かった事か…
一族はお前のプリーストとしての類まれなる素質に気付いていたからな…
親でありながら…何も助けてやれなかった…一族の決定に何も口を出せなかった自分達を許してくれなくていい…
だがせめて…お前達二人は…幸せになって欲しい…
それが…俺達からの願いだ…」
「………」
今まで全くと言っていい程、会話した事が無かった父親から告げられた言葉が、俄かには信じられなくて、イシュアは言葉を失ってしまう。
「……どう 言っていいか分からないけど……
お父さん…お母さん…兄さんを産んでくれて有難うございます。
そして…おれを兄さんの弟として産んでくれた事…感謝してます…
おれは兄さんの弟で充分幸せです。
そして兄さんもシオンさんがいる限り幸せです…
だからおれ達の事は気にしないで…お父さん達はお父さん達の道を歩んで下さい」
暫く黙ったまま俯いていたイシュアは、迷いながらも言葉を紡ぎ、心から思っていた両親への感謝の言葉を口にしてから顔を上げて。
「イシュア…これをイクスへ…」
闇の中から現れた白い手から受け取った物は、青い光を放つ、青ジェムの様な石であった。
「この先結界を張る様な事があれば使って欲しいの…
私達の力を込めてあるわ。イクスの体に負担なく、結界を維持出来るだけの力が込められてある…」
「渡しておきます…
今おれのママとパパは兄さんとシオンさんだから…
だからもう…大丈夫です…
兄さんを助けてくれて有難うございます…」
受け取った石をしっかり手に握りしめ、姿を見せてくれない両親が妙に切なくて、少しだけ泣きそうになりながらも、もう一度頭を下げてからハウスの方へと走り出して。
「…イシュアも この先貴方達に逢うつもりはないみたいだね…」
「双月…」
啜り泣く女性に、闇の中から現れた人物がそっと声を掛け、驚いた様に女性はその名前を呼ぶ。
「あれがあの二人なりの優しさだよ…
君達の一族は彼らをけして許さないだろうから…君達が一族で生きる為に自ら決別を選んだ…」
「分かっているわ…」
「…双月 これから先も俺達の代わりにあの子達を見守ってやってくれ…」
「あぁ 分かってるよ…彼らはボクにとっても大切な子達だ…」
二人から願われた事に頷きながら、双月は翡翠の瞳をハウスへと向けた…
「兄さん 大丈夫…?」
風呂から上がり寛いでいたイクスとシオンの傍に来たイシュアは、そっとイクスの腕に触れて様子を伺う。
「あぁ 大丈夫だ…どうかしたのか?」
シオンに寄りそう様に座っていたイクスは、そんなイシュアの脇に手を差し入れ、軽々と抱き上げてから自分の膝に乗せ、涙で潤むイシュアの顔を覗き込む。
イシュアはそっと、傷が深いだろう肩に指先を触れさせると、大きな瞳から涙が零れ落ち…
「イシュア…?」
「……これ…お母さんとお父さんから預かりました…
兄さんに渡してくれって……」
「……」
涙を静かに零しながらイクスを見上げ、手に持っていた石をそっとイクスに手渡し。
「結界を張る時に、兄さんの体に負担にならない様に結界を維持出来る様にお父さん達の力が込められているって…
おれ達二人は幸せになって欲しいと…そう…言ってました…」
「お前も…二度と逢わないつもりか…?」
「はい…プリーストにならなかっただけでも迷惑かけてるし…それに…おれもあの一族にはふさわしくない体だから…
それに…おれは…おれのパパとママは…シオンさんと兄さんだから…
だから…いいんです…きっとこの方がお互いに…」
「イシュア…」
両親と決別の道を歩んだ…
寂しくないと言えばウソになる。
だがそれ以上に恐ろしいのは、目の前にいるイクスを失う事の方がずっと寂しく…そして恐ろしい…
深く傷ついたその肩に、その首に残る傷跡…
もしかしたら、失うかもしれなかった…
そこまで思わせる傷跡に、包帯越しに指をもう一度這わせる。
「おれの…ママと…パパは…兄さんと…シオンさんっ…なんですっ…
おねっ…がっ…おれ…おいてかなぃ…でっ…
ママとパパが…いなきゃ…おれっ…やだっ…
ふたりが…しんじゃ…いやだっ…
はやく…はやく強くなるからっ…おいてかないでっ…!」
イクスとシオンが出て行ってから、ずっと抱えていた不安が溢れ出した様に、涙をぼろぼろ零しながら、イクスとシオンの服を掴み、幼子の様に訴え。
華奢な肩を震わせて、イクスの胸に顔を埋め、シオンの袖をしっかり掴み、離れたくないと泣きじゃくり。
そんなイシュアの頭をそっとイクスは撫でてやる。
「大丈夫だよ…そう簡単に死にはしない…
10年近く離れて…ただの一度だって忘れた事の無いお前とこうしてやっと逢えて過ごしてるんだ…俺だってお前の事…離したくねぇよ…イシュア…」
共に過ごした日々よりも、離れて暮らした時間の方が長かったが、イシュアは一日だってイクスを想わない事は無かった。
祈らない日は無かった。
それは兄イクスとて同じであった事に、イシュアは顔を上げ、益々その濡れた瞳を潤ませてしまい。
ふわりとイクスとは違う、体温の低いシオンの手が、自分の頭を酷く優しく撫でている事に、より涙は止まらなくなってしまい。
「っ…にぃさん…シオンさん…
おれを…抱いて 下さい……」
「っ!?イシュア?」
「……」
泣きながらも顔を上げ、二人を見上げながら擦れた声で紡がれた言葉に、イクスは驚き、シオンは無言のまま笑みを浮かべ。
「…もっと…もっと二人を…感じたいっ…
二人がココにいるって…感じたいんですっ…!
お父さんと…お母さんが…お父さんたちじゃ…なくなっても…
兄さんは…おれの兄さんだよね…?
離れっ…たくなぃっ…
なんでもっ…するからっ…おれを…だいてっ…?」
イクスの服の胸元を必死に掴み、泣きながら見上げ訴えてくるイシュアを見つめていたイクスは、唐突に手で顔を隠してしまい、その様子に拒否られたと思ったイシュアは、益々涙を溢れさせて。
「ったく…俺達が親は嫌だったか?」
「っ!?そ…そんなはずないですっ!でもっ…」
唐突にイクスごとシオンの腕の中に抱きしめられて、耳元でささやかれた言葉に目を見開いたイシュアは、目を見開いて否定してみせ、手を覆ったままのイクスに視線を向けて悲しそうに目を伏せて。
「ちげぇよ…なんつーか…あんまりにもかわいいのと…嬉しすぎて…
まさかお前が抱いてくれって、言うなんて想像してなかったしよ…」
そういって手を除けたイクスは、真っ赤な照れた顔で苦笑しつつ顔を現し、そのままイシュアの唇にそっと口づけをしてやり。
「望み通り…抱いてやるよ…
オレ達が目いっぱい愛してやる…」
そう囁きながら、イクスはイシュアの目じりを指先で拭ってやり、嬉しそうに微笑むイシュアの服に手を掛けた…
「あっ…!あぁっ…にぃさっ……っっっ!!!」
イクスに組み敷かれ、何度と無く激しく奥まで突かれ、共に後ろからシオンに突かれて、甘美な声を上げるイクスの姿により興奮し、イシュアもまた、いつも以上に甘く艶っぽい声を上げ、イクスに縋り付きながら、その唇を求めて…欲して…
イクスが果て、自分の中へと大量に注ぎ込まれる熱い蜜を、体の一番奥底で受け入れ、それと同時に、イシュアもその先端から白濁を飛び散らせ。
「まま…ぱぱ…だい すき…」
激しすぎる快楽から溢れ出る涙を頬へと零しながら、途切れていく意識の中で、目の前の二人に向かって囁くと、そのまま意識は夢の中へと落ちてゆき…
どうか…どうか…神様…
おれの大事な人達を…
全ての苦しみから…悲しみから…守って下さい…
それが…おれのただひとつの願い………
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COMMENT
No Title
イシュア可愛いv と思うより先に「ごめんなさい!」と全力で謝ってしまいました。
放置されていた、自分には興味が無いんだと思って居た両親が実はちゃんと想って居てくれていた事にイクスもイシュアも知れた中期連載の温かな後日談有難うございました。ミナヅキさんには疚しい気持ちが無いなら何故会わない! と睨まれてましたが(笑)
双月さんと両親がお知り合いだったとは(爆)そこに一番驚かされました。没ネタになったネタなので暴露しますと、イクスに元々グロリア(に似た曲)を教えたのは双月さん設定あったんです。例えハーフでも結界一族の住む村に来れるってのは無いかなーで没にしたんですが、しても良かったかも!?
今後の予定としてもイクス君には結界術を使う機会があるので両親からの石を使うか、その石に自分の力も籠めてイシュアに巾着袋型のお守りとか言って渡すか……。
妄想が暴走してすいません。
可愛いv 萌えるv よりも両親との決別シーンでイシュアの成長が垣間見れ、感動覚えた次第です。
ガタガタな中期連載に素敵な後日談有難うございました。
東雲様
パソ子さんを帰ってから開く暇もないって何…(汗)
そして、勝手に後日談を書いてしまったのに、暖かいお言葉ありがとうございますw
あの連載を読みながら、あぁ、こんなにも両親は辛かったんだろうな…そして、二人と決別する事で両親を守るイクスの優しさに、どうしても子供であり、そして弟であるイシュアの視線からも話を書いてみたくて、ついつい書いてしまいました…が、こんな勝手に色々勝手に決めちゃった設定もあったりして、良かったかなぁと反省してみたり^^;
OK頂いて嬉しかったですw
そして双月が両親と知り合いで、そしてイクス達のことを見守ってるってなんかいいなぁと♪
その没ネタいいですね!!
双月はハーフですが、全くの人間の気配とかにも長年の知恵?でなれそうなので、イクスのいた村にきて教えたって話はすごくいいと思いますw
ってか、その設定でいきたいです!
出来れは、その石はイクスがこれから使うことがあればいいかなと…
で、イシュアのお守りは…やっぱり首輪?(爆)
イシュアは、シオンとイクスを両親としてますので、少しづつ成長してる…かもしれない?
今後とも宜しくお願い致しますm(_ _)m