「ねぇ母さん 父さんはなんで居ないの?」
「父さんはどっかにいるんじゃないかしら?多分生きてると思うけど?」
「…生きてるなら なんでココにいないんだ?」
「あたしとアンタの為よ…
あの人は そんな世界に生きる人だからね」
「なんだソレ?一体なんの職業なんだよ」
「アサシンクロスって暗殺者…かっこよかったのよぉ」
まだ ボクが冒険者になる前の頃
庭で洗濯を干す母さんに父さんの事を聞いた事がある。
母さんは楽しげにボクに答えてくれた。
まるで少女の様に頬を赤らめ
とても格好よかったのだと
あの時は だからそれが なんでボク達の傍に居ないのか
理由は分かんなかったんだ…
ボクがアーチャーになった頃
狙撃の名手と言われ その強さと豪快な性格でも名を馳せた母さんが
ある日突然殺されてしまった時
ボクはやっと理解したんだ…
ボクらが狙われるかもしれないと分かっていたから
父さんは一度もボクの前に姿を現わさなかったって事を…
母さんは 誰かも知らない
暗殺者によって 殺されたから…
「にーちゃんっ この矢筒とぉ~…後 そっちの罠と…
後は…その白ポも5個ちょーだいっ」
「分かった…落とさない様にな…おまけにリンゴをつけておく…
そっちの鳥に食べさせてやれ…」
プロンテラの街中
道一杯に色んな露店が並んでる
賑やかなこの通りが大好きだ
そんな中 結構安くで矢筒とか罠を売ってる露店を見つけて
注文をして袋に入れて貰う
子供のファルコンのクーリィーが物欲しそうに
露店のリンゴを見てたからか
短い赤い髪のアルケミストの無愛想なにーちゃんは
袋の中に小さなリンゴを何個か入れてくれた
「やったっ!
ありがとなっ にーちゃんっ」
「…これもおまけだ…」
思わず喜んだボクとクーリィーに
にーちゃんはカートを探って
小さな声で荷物と一緒に お菓子が入った袋をくれた
「わーいwまた 買いにくるなっにーちゃんっ」
手を振りながら露店を離れると
照れくさそうににーちゃんが手を振ってくれた
無愛想なだけで いいにーちゃんだったらしい
白ポのラベルを見ると
『イルシア』って書かれてた…
イルシアってにーちゃんかぁ…
よし またあったら行ってみようっと
他の露店を見て回ったり 街のお店を回って
小さな花束を買う
「たっだいま~」
アルデバランの街にある 古い宿屋を改良したアパートの一室の扉を
ボクは開けて中に入る
昔は母さんとフィゲルに住んでたけど
今はアルデバランのココにクーリィーと住んでいる
荷物を下ろし買ってきた罠や矢筒を片付け
袋に入ってたリンゴをクーリィーに渡してやる
「くるるる~」
クーリィーは器用に足で掴んで 嬉しそうに鳴きながら
美味しそうに食べている
「この菓子包みの中身はっと…やった!アメちゃんとクッキーだ!
ほらっ見てよ母さん こんなにアメちゃんが一杯入ってた!」
ボクは窓辺の小さなテーブルに飾ってある母さんの写真に
包みを見せる
アメちゃんをキャンディーボックスに入れて
クッキーを食べながら他の荷物を開き
買ってきた花をガラス瓶に入れて
写真の前に飾ってやる
「そして じゃーんっ!
今日はケーキ買って来たんだよっ
母さんの誕生日だしね?
まぁ 食べるのはボクとクーリィーだからちっちゃいけどさ」
いそいそとケーキを小さなテーブルに花と並べて
その前の椅子を置いて 写真の母さんを見つめる
母さんは このアルデバランから行ける
雪の町ルティエの手前のフィールドで殺された
ボクのクリスマスプレゼントをルティエに買いに行く途中で…
騎士団の人達は ハティにヤラレたんだろうって言われたけど
多分 違う…
だって あの母さんがハティにヤラレる筈なんて無いから…
だからボクは この街に引っ越してきたんだ
少しでも 近くにいたくて
でも…
母さんの死んだルティエには行けてない…
「母さん…一体誰に殺されたの…?」
そっと 笑う写真の母さんに語りかける
「父さんを狙ってる奴?」
答えてくれる声はない…
その犯人が憎い
そして 父さんに会いたい…
会って どうしてだと聞きたい…
でも 犯人を探したり復讐する事はしないと決めている
だって…
それをしたら 母さんが悲しむのが分かってるから…
「ボクは…
元気だよ?
元気に毎日 過ごせてるから…心配しないで?
母さんに負けない 弓手になってみせるよ…
だから 見守っててね?
大丈夫っ 一人でだって 寂しくなんてないんだからっ!」
泣きそうになる気持ちを誤魔化す様に
そして 毎日元気で過ごす事を誓う様に
わざと声を大きくして 立ちあがる
『ウォレス…』
そう 声が聞こえた気がした…
母さんの…
ふわりと抱きしめる様に 窓から風が吹きぬけてゆく
「っ…ひっ…っくっ…かぁさん…
さびしぃ…よぉっ……
だれかっ…抱きしめてよぉっ…」
押し込めていた寂しさが 胸から上がってきたみたいに
涙が溢れて とまらなくなった
拭っても拭っても とまらなくて
抱きしめてくれる腕が無いって事が
悲しくて仕方なかった…
自分の手を回して 肩を抱く
膝を床について 幾ら呼んでも
誰もいない…
その事実を改めて知って
悲しくて 切なくて 苦しくて…
そっと クーリィーが心配する様に
肩に乗って身を寄せてくれる温かさが
今のボクの救いだった…
母さん…
まだ 貴方が眠る場所にいけないけど…
いつか 大切な誰かが出来たら
きっと行くよ…
雪の華しか咲かない場所に
温かな色の華を持って行くから…
それまで 待っていて…
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