「あの…リジェクトさん…おれ 歩けますけど…?」
片手に荷物の入ったバスケットを持ち、もう片方の手だけでイシュアを自分の腕に腰掛けさせる様な形で抱き上げ歩くリジェクトに、イシュアは恥ずかしそうに遠回しに下して欲しいと声を掛けるが、リジェクトは全く下す様子も無く、ゲフェンの街から出た西のフィールドを歩いていた。
「何言ってんだ…やっと歩ける程度だろうが…今日はイクス達は仕事だし、寝込んでからずっとベッドだったしな…たまにはこうして外に出かけるのもいい気分転換だろう?」
そう言われてしまうと、もう何も言えなくなってしまう。
ほんの3週間ほど前…死に掛ける事件があり、双月がいなければ確実に死んでいたらしい身体は、全ての生命力を使い果たしたと言わんばかりに、酷い疲労感に襲われ、一週間前までベッドから起き上がる事さえままならない状態で、やっと一昨日位から部屋でふらつきながらも歩ける程度まで回復していた。
だが、事実まだうまく足に力が入らないので、ハウスからこの距離を歩けるかと言えば、実際のは歩けないので、そのまま大人しく抱かれ、リジェクトに首に回す腕に少しだけ力を入れて、その頼りがいのある体に身を寄せる。
「よし…誰もいないな…」
ゲフェンフィールドの、のどかな展望台まで来たリジェクトはやっとバスケットを下すと、腰を下ろし、自分の膝にイシュアを座らせてやる。
「ここ…アカデミーの依頼の時に来た場所です…久々に来ましたけど…凄く気持ちいいですね…」
吹いてくる風に髪を揺らして、嬉しそうに微笑みながらリジェクトを見るイシュアに、リジェクトは少しだけ赤くなりながらも、バスケットの中身を探りポットを出すと、持ってきた木のカップにそこからスープを注いで、イシュアに渡してやる。
「ほら…イクス特製のスープだ。しっかり飲めよ?」
「あ…はい…有難うございます…」
思わず渡されたスープの中身に人参が入ってないか確認してから、そっと息を吹きかけて少し冷ましてからスープを口にする。
「サンドイッチ食べれるか?」
「はい いだだきます」
まだ重たい物が食べれないイシュア用にと、薄くスライスして耳の部分を切り落としたパンにイチゴジャムなどが塗っただけのサンドイッチを手渡し、それを食べるイシュアを見ながら、リジェクトもまたハムやチーズがしっかり挟まった物を食べていく。
(ココに ちゃんといるんだよ…な…)
双月が来てくれなければ、確実に死んでいただろう、愛おしい目の前の恋人を見つめて、心の中で小さく呟く。
何度あの日の夜から、イシュアが目の前で死んでいく夢を見た事であろう。
目覚めないイシュアに、夢が再び現実になるんじゃないだろうかと不安に何度駆られた事であろう…
今 ココで…自分のすぐ傍で、一緒にサンドイッチを食べている…こんな光景がもう一度見られる日が来るなんて…そう思い、思わず無意識にその頭を撫でてやる。
まるで、初雪を触るかの様に…そっと…
「リジェクトさん?」
いきなり優しく頭を撫でられて、イシュアは首を傾げながら相手を見上げる。
「あ…悪ぃ…なんか…本当にココにお前がいてくれてるのか…不安になってな…」
「……」
どこか泣きそうな顔でこちらをじっと見つめてくるリジェクトに、どれだけ自分が心配を掛けてきたのであろうかと思い知り、手のしていたカップなどを置くと、その大きな手を取って自分の頬へと触れさせて。
「おれは…ココにいます…リジェクトさん…心配掛けて ごめんなさい…」
「……っ…イシュアっ…」
暖かなぬくもりが手から伝わり、今まで抑えていた色々な感情が湧き上がると、そのままイシュアを包み込む様にしっかりと抱き締めて。
「イシュア…もぉ…頼むから…どこにもいかないでくれっ…オレは…お前がいなくなったら…どうしていいか…わかんねぇから…なんかあったら…必ず…ちゃんと隠さずに言えよ…オレはお前が思ってる程、強くねぇから…お前の隣にしか、オレは自分の居場所を見つけられねぇんだから……」
「っ…!!」
自分の軽率な行動が、どれだけの人達に心配とこれだけの不安や悲しみを与えてしまったのか…目をちゃんと覚ました時に、イクスもまた泣いて抱き締めてくれた…
そしてシオンもまた、物凄く心配をしてくれていた事が分かっていた。そして…恋人であるリジェクトが悲しまない訳が無く、どれだけ悲しませていたのかが分かり、イシュアは思わず目を見張り、泣きそうになりながら背中に腕を回して。
「ごめっ…なさ…リジェクトさっ…も…どこにも…いきません…からっ…おれ…となりに…いるからっ…」
「イシュアっ…愛してる…愛してる…」
「…おれも…愛して ます…」
悲痛なリジェクトの想いが真っ直ぐに伝わってきて、思わず涙を零し、抱き返しながら答え、リジェクトもまた、泣く自分を抑えつつも、その耳元で想いの丈を伝える様に囁き、イシュアはその想いに答え、そして、どちらとともなくそっと唇を重ねて…
「愛してるよ…イシュア…オレの愛おしい人…」
濡れた頬を両手で包み込み、そっとその目尻を親指の腹で拭ってやりながら、甘い声で囁くリジェクトに、思わず赤くなりながらもイシュアは微笑んでやり。
「はい…おれも愛してます…」
「これからは毎日愛してるって囁くよ…何度だって囁いてやる…」
「それはちょっと…恥ずかしい気もしますが…でも、嬉しいです」
嬉しそうに答えるイシュアに、決意した様なリジェクトの返答に思わずイシュアは困惑した表情を見せるが、再び微笑み抱きつくと、そっとその唇に自分から唇を重ねて…
そうして甘い二人の恋人達の蜜日は、より一層甘い時間へとなっていくのであった。
そんなある日のお昼時のお話…
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COMMENT
No Title
ちゃっかり人参入って無いか調べるイシュアが可愛いです。しかし、イクスもちゃっかり人参入れてるだろうなとか予想www
弱音を吐かないリジェクトが唯一、弱音を吐ける場所。護りたいと願う大切な人を見つけてくれたのが本当、嬉しいです。幸せになれよ。と思いつつ、行き過ぎると両親から鉄槌が来るんだろうなと。
しかし、リジェクトに完全にイシュアを伴侶(?)として認めて距離を両親が取ったらイシュアはどう反応するのだろうか。とか疑問に思ってしまいました。
ちゃっかり告白したリジェクト君。御馳走様でしたv
六葉様
5月と言う月は、六葉さんに私と出会ってくれて有難うの感謝をする月と決めていたので、今回やっとお礼をする事が出来てこちらこそ嬉しい限りです♪
何より相方になれたww
いやぁ、イクスが作った特製スープなので、イシュアは必ず人参が入ってないかどうか確認しそうだなぁとwでもイクスの事だから、すりおろして分からない様にしっかり味付けして入れてるんだろうな(笑)
リジェクトは本心から弱音を誰にも吐いたりしないですし、過去の事件の事もあり、イシュアの傍に居場所が無いと、全く自分というモノを失って、いつの間にか消えてしまいそうな程儚い存在なイメージなので、私も嬉しい限りですw
おまけにその大切な存在がイシュアっていう幸せ☆
まぁ…まだ相手が子供な分、両親からの鉄槌が下されますので、ちょくちょく手は出せませんが(笑)
イシュアにとってリジェクトもイクスもシオンも、けしてなくてはならない相手なので、距離を取られたりすれば、本心から笑わなくなるかもですね…
自分はもういらないんだと思ってしまうかもですし…
やはり、失ってしまう…その恐怖を直面にして、そして生きていてくれている今を想像すると、伝えたかった言葉をリジェクトも伝えるんじゃないかなぁと 思ったので告白して貰いましたw
こちらこそリクありがとうございましたw