「やっぱり…相手の子供と会うって時はちゃんとした正装が良かったかな…?
でもシノさんは簡単に紹介したいって言うことだったし…
それにシオンは今までもずっと客として付き合いがあるから今更畏まるのもなぁ…」
WSのレイジェルは、シノと待ち合わせをしたプロにあるカフェの一席でソワソワと落ち着きなく、何度も自問自答していた。
カフェとは言っても、ちゃんと奥には個室まであり、その個室の一室でレイジェルは年甲斐もなく、あれやこれや考えていた。
相手が小さな子供ならばともかく、立派な大人であるし、おまけに自分よりも遥かに強い暗殺者という立場にいる。
本来ならば、自分みたいな製造しか出来ない様な男は、ただの邪魔にしかならないんじゃないか…
段々考えが纏まらなくなった頃…
「お待たせしました レイジェルさん」
そう 春風の様に優しい声で個室の入り口から声をかけてきたのは、勿論愛おしい恋人のシノであった。
「仕事が終わってそのまま来たから、着替えてる暇無かったけど…」
「いや 俺もいつもの恰好だから構わない…」
最近デートという時は、清楚な普段着で来るシノが仕事着でもあるギロクロの衣装でそこに立っていた。
普段着であるとまるで聖職者の様であるが、ギロクロの衣装ともなれば、清楚の中に美しい刃が見え隠れして、かなりの手練れだと実感する。
それでもその愛らしさは変わらず、レイジェルは笑顔で立ち上がり、思わず顔を赤らめつつ迎い入れる。
「失礼します…さぁ 貴方達も入って?」
そう言いながら個室へと入ったシノは後ろにいる人物を中へと促して。
そこに現れたのは、美しく長い金髪の女性と、そして…
「シオンと…イクスまで?」
「えぇ だってイクスも私の大事な息子だもの」
「あぁ…そういえば、結婚してたんだったな…お前達」
その後ろからシオンと、そして客として常連であり、シノへと告白を促してくれたイクスが居て少々驚いてしまうが、以前男同士でありながら本当に結婚している夫婦と見せつけられた事を思い出し、納得した様に頷く。
「どっちにしろ、ずっと客として付き合ってきたお前らとこんな風に会うなんてな…」
「こっちのセリフですよ…レイジェルさん。
なんつーか…照れくさい…」
思わず頭を掻きながら笑うレイジェルに、イクスもまた苦笑しつつシオンを促し、席へと腰を掛ける。
シオンに至っては、睨みつける以外には言葉を発する事無く、イクスの傍で大人しく座っていた。
「シオンとイクスはもうお互いに知ってるから、改めて自己紹介とかいらないでしょうけど…
レイジェルさん?この子がシオンの妹で私の娘、シズクっていうの?」
「え えっと…初めまして…」
シノに良く似た清楚な顔立ちのシズクは、シノから紹介されると頬を染めて恥ずかしそうにうつむき加減に小さく挨拶をする。
「初めまして…シズクちゃん?レイジェルと言います。宜しく」
可憐な花の様にどこか恥じらうシズクに向かって微笑みながら挨拶をして手を差し出し、そっと小さなシズクの手と握手を交わす。
「やっとレイジェルさんに紹介出来たわ。
三人とも私の自慢の子供達なのっ」
「あぁ 俺も改めて会うことが出来て良かった…」
正面にシノとシズク 横の席にシオンとイクス
四人を目の前にすると、何とも言えない妙な緊張と、そして少しの幸せが胸へと染み込んでゆく。
「えーと…なんて今更言うべきかな…」
「…本当に貴様はシノを幸せに出来るのか…?」
少しだけ顔を赤らめながら何というべきか言葉を選んでいたレイジェルに、いきなり今まで発言してこなかったシオンからの冷たい一言が降り掛かる。
「シノには幸せになって貰いたい。貴様みたいな男がシノを幸せに出来るのか?」
「シオン……」
更に凍てつく様な鋭い眼光でレイジェルを睨みながら発せられた言葉に、思わず青ざめながらシノが名前を呼ぶ。
「まぁ 確かに…俺はシノさんやお前達と違って製造だし、弱い。
正直戦いの場になんざなれば、守られる立場だ…情けないけどな?
それでも俺はシノさんを幸せに出来ると思っている」
その凍てつく眼光に晒されても、レイジェルは怯える事無く、普段のへタレ具合はまるで出る事もなく、真っ直ぐにシオンを見つめて笑みを浮かべる。
「戦いに疲れたシノさんが安心して帰れる場所を作ってやる事。
そして 彼女が絶対の信頼を寄せて戦える武器を作り続ける…それこそが俺が彼女を幸せに出来る方法だ。
戦って護ってやりたい…ってのが本音だが、それが出来ない事は十分に分かっている。
だから、俺は俺のやり方でシノさんを護り、そして幸せにする」
臆する事無く、シノに良く似た金の瞳を見つめて、想いの丈をシオンへと告げると、シオンの唇の端に微かに笑みが浮かぶ。
「分かった。後はシノが好きにすればいい」
それだけ言葉にすると、シオンはすぐ隣のイクスを抱きしめる。
「あ~…一応 親の前だからさ?抱き着くのやめねぇ?」
「関係ない…」
「まぁ取りあえず、シオンはレイジェルさんを認めたって事ですよ。
俺も、シノさん…お義母さんには幸せになって貰いたい。
だから、今の言葉、忘れないで下さいよ?」
家族の前でも抱き着いてくるシオンにイクスは一応やめるように促すが、聞くはずも無く。
引き離すのを諦めたイクスは抱きしめられたままレイジェルに念を押すように、それでも穏やかな声で心の底から願い。
「あぁ わかっている。だが、シノさんだけじゃない。
俺はシノさんが護りたいモノも一緒に護らせて欲しいと願っている…これを…」
そう言って、レイジェルは傍に置いていたカートから取り出した物をテーブルへと並べる。
そこには4本のナイフの様な小さな短剣。
「以前イクスの弟に作った護身用短剣が命を守ったって聞いてな…俺なりにアレンジを加えてみた。特にイクスやシズクちゃんは短剣を武器としては持てないしな…
小さく軽量化はしてあるが、頑丈に作ってあるから、相当の威力で攻撃されても壊れはしない。
心臓とか護りたい場所に仕込める様に作った。
これが俺なりのお前達の護り方だ…俺は 自分の家族を護りたい…
だから、受け取って欲しい」
ほんの少しの間があり、無造作にその短剣を手に取ったのは、意外にもシオンであった。
「邪魔くせぇ…」
「っとに素直じゃねぇな…サンキュ レイジェルさん?
アンタの作ったモンならば信頼出来る。これからも頼むな?」
「私も…頂きます…有難うございます」
吐き捨てる様に呟いて懐に直すシオンに、イクスは苦笑しながらも短剣を手に取り、レイジェルに礼を言い、安堵した様にシズクが次に短剣を大切そうに手に取る。
「有難う レイジェルさん…
これからも私と私たちの為の武器を作って下さいね?」
「はい シノさん…」
三人の子供達が短剣を手に取ったのを見て、シノは最後にその短剣を手に取り、涙を浮かべて微笑みながら静かに告げて、レイジェルもまた、頬を染めながら小さく頷き。
「へ~ じゃあ皆に挨拶出来たんだ?」
プロンテラの露店が多く並ぶ大通りの少しだけ離れた所に露店を出していたレイジェルの傍で、にこやかに双月が微笑みながら話を聞いていた。
「あぁ まさかイクスやシオンと親子になる日が来るとは思わなかったけどな?」
「そうだねぇ…式はいつ?」
「…まだ そこまでシノさんと話して無いけど…一応今、結婚資金を貯めてる…」
「だから最近、一緒に狩りに行こうって誘いが多いのかぁ」
「にやにやすんなっ!結婚資金とかが全部貯まったらちゃんと正式にプロポーズするよ」
「出来るだけ早いほうがいいよ?だってクリスマスの時期に婚約指輪に名前彫って貰って用意してるんだし?」
「なんでお前がそれを知ってるんだっっ」
思わず満面の笑みで話を聞いていた双月はレイジェルのこれからの予定を聞いて楽しげであり、双月が自分が密かに行っていた事を知っている事に、顔を真っ赤にして声を荒げて。
「あれ?レイジェルさんと…双月 さん?」
不意に目の前から聞こえたきた声に、二人は視線を向けると、そこには愛らしい犬耳を着けたイシュアが不思議そうに立っていた。
「やぁ イシュア君。こんな所で一人なんて珍しいね?」
「あ…えっと…ソードマンギルドに呼ばれて…帰ってる最中で…
その…露店を一人で見てた事は、兄さん達には内緒でお願いします…」
双月からの言葉に、慌てた様に一瞬視線を彷徨わせるが、けして一人で露店を巡らない様に言われている為、恥ずかしそうに内緒にしていて欲しいと小さく頭を下げて。
「………」
「…レイジェル さん?」
すっかり馴染みとなったレイジェルがじっと自分の顔を見ているのに、イシュアは小さく首を傾げて相手の名前を呼ぶと、いきなり頭をくしゃくしゃと撫でられてしまい。
「えぇと…?」
「いつの間にか俺は子供だけじゃなく、孫持ちになったんだなぁと…幸せな事だ」
不思議そうにレイジェルの言葉に更に首を傾げて考えるイシュアに、後はイクスとシオンに聞いてみろ?と教えて、持っていたお菓子を持たせ、渡した蝶の羽で帰らせて。
「すっかり嬉しさにヤニ下がった顔してるよ~」
「うるせぇよっ!ホラっ!」
すぐ傍らに腰を掛けた双月はニヤニヤ楽しげに笑いながら、今のレイジェルの顔を指摘してやると、怒った様に双月へと手にしたモノを投げて渡す。
「これは…」
「シノさん達にやった短剣だ。お前も大事な奴がいるんだろ?安くしとく」
「え~…僕にお金取るの?」
「当たり前だっ!俺はタダでは家族の為にしか作らんぞっ」
拗ねた声を上げる双月に、レイジェルは赤くなった顔で怒鳴るのであった。
「本当に良かった…皆が幸せになってくれる…
ずっとレイジェルは一人だったから…本当に良かったよ…」
誰も居ない夜の砂漠を歩きながら、月明かりに照らされた手元の短剣を見つめながら小さく呟く。
魂の籠った短剣…きっと愛する人の心臓を護ってくれるであろう。
「僕の代わりに…僕はまだ…傍にいれないけど…僕の愛する彼を護っておくれ…」
そう願い、月明かりの中、双月はそっとその短剣へと唇を寄せて口づけをする。
そして、それを贈りたいただ一人に人の元へと足を向けるのであった…
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COMMENT
No Title
えぇと、自分も誤字とか酷いのに言うのも気が引けますが、「特にイクスとしずくちゃん」シズクちゃんが平仮名に。「以外にもシオンが」意外? 失礼しました。
レイジェルさん、シオンに睨まれてもシノさんを自分なりの方法で護るとか! 滅茶苦茶恰好良いですねv シノさん益々惚れたんじゃないでしょうかwww
聖職者だから短剣持てない……しっかり刀持って斬ってるって知ったら、どういう反応するんだろうか。ちょっと気になりました。
双月さん、レイジェルさんがクリスマスに指輪を作ったとか、どうして知っているwww 影の黒幕は彼なのでは無いでしょうか(爆) 密かに指輪を用意したって事をバラさなかったらタダで渡してくれたんじゃないだろうかとか、考えてしまいました。
果たしてライは双月から短剣を受け取るのでしょうか。この続きが書きたくなって来ました。あぁもう素敵な萌えを有難うございます!!!
勢いのままのコメで乱文になってしまって、すいません。
六葉様
ご指摘有難うございます!
いつも助かってますw何度か見直しても間違ってるもんですね^^;
レイジェルは決める時はちゃんと決めますb
伊達に歳を取ってない?(笑)
そして若くない分、自分ってのを良く分かっているので、背伸びはせずに今の自分でどう出来るか?と考えてます☆戦えないならば、どう護るかと…
案外しっかりとした大人でしたw
そうか…短剣を使うのか…
って事になったら、今度はイクスとかに合わせた短剣とかを作って持たせそうですよ☆
その内、シオンから依頼して作ったりとかないかしら♪
イクスが使いやすい武器を作れとかwww
双月は何で知ってるんでしょうねww
確かにばらさない代わりにタダにしてとかいいそうだ(爆)
ライは受け取ってくれるのだろうか…
双月の力まで籠った短剣ですが…
その話を見たいな…なんて…こっそり思ってみたりしますが…w
こちらこそ萌なリクを有難うございました!