「イルシアではないか」
アルテミスギルドにて、頭にホムンクルスのゲイルを乗せて歩いていたディルは、露店仲間であるイルシアの姿を見かけ、後ろから声を掛ける。
「あ…ディル…と、ゲイル…こんちわ」
滅多にアルケミストギルドで声を掛けられる事の無いイルシアは、思わず驚き肩をビクッとさせて振り返るが、そこにいたディルとゲイルを見てほっと息を吐き、無表情の厳つい顔に他人には分かり辛い笑みを浮かべると、軽く頭を下げる。
「めぇぇ~」
「もふもふもいたのか。いい子だな」
ディルの声に先を歩いていたイルシアのアルケミストのもふもふは戻ってきて、ディルとゲイルに挨拶する様に鳴き、ディルはその柔らかい頭を撫でてやる。
「レポートの提出にでもきたのか?」
「あぁ…さっき提出してきた…
なぁ…ディル…ホムの良い狩り場はどこになるだろうか…?」
アルケミストギルドに来た理由を聞いたディルに頷き、答えたイルシアは、ホムのもふもふとどこの狩り場が適しているか分からず、クリエイターであるディルに尋ねる。
「そうだな…まだ、レベルもそんなに高くないし、無理をしないでいくならウルフとかどうだろうか…?」
そうディルからアドバイスを貰ったイルシアは早速教えて貰った
フェイヨン迷いの森のウルフが生息する場所へ来ていた。
その隣にはディルとゲイルもいた。
「いいのか?ディル…
ゲイルはもっと強い狩り場に行けるだろう?」
「まぁ…ゲイルはもっと強い狩り場にもいけるだろうが、またにはお前とも一緒に狩りをしてみたかったのだよ。
迷惑か?」
ゲイルに餌のガレットを食べさせているディルを見ながら、イルシアは少し不安そうに聞くと、ディルは笑みを浮かべてイルシアを見上げて、迷惑を聞かれた事にイルシアはブンブンっと首を横に振って否定してみせる。
「では、ここはウルフがメインで そう強い敵はいないから
まったり狩っていこうではないか」
「そうだな…もふもふ 頼んだぞ?」
「めぇぇぇ~~」
イルシアももふもふに餌のジャルゴンを食べさせながらディルに嬉しそうに頷き、もふもふを先頭にやると、元気よく鳴いて、蹄で地面を蹴り走り出し…
「もふもふっ ディフェンスっ!!」
「めぇぇっっ!!」
「ゲイルっ!ムーンライトっ!!」
「キュィィィッ!!」
「ぎゃうんっ!!」
敵を攻撃し 自分に襲ってくる相手に対し、イルシアの言葉でもうふもふは防御力を高め、その攻撃に耐えてる間に、ディルの声でゲイルが翼を羽ばたかせ敵に攻撃し、ウルフは悲鳴を上げてその場に倒れる。
二匹で協力し合いながら狩りをしていた時であった…
「なんか…騒がしいな…」
狩りの途中、にわかにいつも静かな森が少し騒がしく感じ、イルシアは顔を上げ辺りを見渡す。
「そう言われれば…なんか騒がしい感じが…っ!?うわぁぁぁっっ!!!」
「めぇぇぇぇっっっ!!!」
「ディルっ!!もふもふっ!!」
「キュィィ!!」
突然ディルの足元が弾け、傍にいたもふもふ諸共吹き飛び
そのまま崖から滑り落ちて行き
イルシアはその悲鳴に真っ青になりながら手を伸ばすが間に合わず、ディルともふもふの姿は崖下へと消えてしまい。
「待てっゲイルっ!お前じゃ無理だっ」
「キュィィッッ!!」
主人であるディルを追いかけ様とするゲイルをイルシアは慌てて両手で掴み、下りてゆくのを阻止すると、その大きな手をゲイルは嘴で突いて離そうとして。
「この崖は高過ぎて お前では飛んで下りる事は出来ない。
転がり落ちて死ぬのがオチだ…
そんな事になったらディルが悲しむ…
ちゃんと俺が探してやるから…それまで我慢しろ…な?」
「…キュイ…」
手を嘴で突かれ血まみれになっても、イルシアは離す事なく、暴れるゲイルを説得する様に声を掛け、その真摯な様子にゲイルも理解したのか、大人しくなり。
「有難う…ゲイル…
しかし…今のはスキッドトラップ…だよな…
あんなのが使える奴はこの森にはいない筈………なっ!?」
大人しくなったゲイルをそっと離して 頭を撫でてやりながら、ディルともふもふが吹っ飛んだ攻撃に考える様に俯くが、軽やかな ここでは聞く事がない音が聞こえ、その方向を見たイルシアは思わず固まる。
そこには
このフィールドにはいない筈の 凶悪な黒いサル…
チョコが取り巻きのヨーヨーを引き連れて姿を現わした…
「キキィッッ!!」
「うわっ!!このっ!!」
目が合った途端 チョコは取り巻きと共に一斉に襲いかかってきて
驚いたイルシアは思わず体制を崩しそうになるが、即座に腰からサーベルを抜き放つと、その攻撃を防ぎ 後に飛びずさる。
「すぐに追いかけないといけないのに…面倒なのがきたな…
…ゲイルっ 力を貸してくれっ!ディルが心配だっ!」
「!?キュィッ!!」
攻撃を多少受けつつも なんとかかわし攻撃に移るが、やたらと取り巻きが群がり、中々チョコを攻撃出来ず、どうしていいか迷う様に頭の上を飛んでいたゲイルにイルシアは願いを込めて叫ぶと、意味を理解したゲイルは高く嘶き、チョコに向かってその身を翻した。
「イタタ…一体なんだと言うのだ…」
「めぇぇ」
「もふもふ…お前も吹っ飛ばされたのか…
イルシアとゲイルは…この上か…ちょっと遠いが…歩いていくか…」
茂みの中に落ちたディルは 腰を抑えながらなんとか立ち上がり、共に落ちてきたらしいもふもふが近寄ってくると、無事な姿にホッと息を吐き出し、崖を見上げる。
『イルシア?そっちは大丈夫か…?』
上の様子が分からないディルはPTチャットで呼び掛ける。
『よかった 無事だったんだな?くっ!そこにいてくれっ!!』
『一体どうしたと言うのだっ!?』
ディルの呼び掛けに安堵した声が返ってくるが、すぐにそれは切羽詰まった声に変わり、驚いた様にディルはイルシアに呼び掛ける。
『チョコが現れたっ!誰かが枝折ったみたいだっ!!
倒してそっちに向かうっ!!』
「…チョコだと…なんでそんな物がここに…
もふもふ…イルシアは大丈夫だろうか…?」
「めぇぇ~~…メェェッ~~ッ!」
話す余裕がないのか それ以上返信が来ないイルシアの元に行こうか迷ったディルは、その足元にいるもふもふに話しかけるが、もふもふは大丈夫だと言う様にのんびり鳴いていたが、急にその声を緊張のある声音に変え、顔を茂みの奥に向けると、興奮した様に前足の蹄で地面をひっ掻く。
「一体どうしたと言うのだ…よ…」
その様子に緊張した顔で周りを見渡したディルは
酷く荒い息遣いを聞き、思わず眉を寄せてその方向を見る。
そしてその方向には、やはりこのフィールドにいる筈ないハイオークの姿があったのだった…
「なんでこんなところに…っ!?」
「ガァァァァッッッ!!!」
「メェェッ!!」
こちらに気付いたハイオークが斧を振り上げて向かってくるのに、ディルは思わず驚きつつも腰のホルダーからアシッドボトルを取り出すが、それより先にもふもふは角の生えていない頭を振りかざし、思い切りハイオークに向かって頭突きを食らわせタゲを自分へと向かわせて。
「もふもふっ!?っ…済まんっ 耐えてくれっ!アシッドテラーっ!」
耐えてくれるもふもふに謝罪をしながら、ディルは取りだしたアシッドボトルをハイオークに投げつけた…
「キュィィィィッッ!!」
ゲイルは小さいながらも攻撃力のある嘴でイルシアの邪魔をするヨーヨーを次々に倒してゆき、そのお陰でイルシアはチョコと対峙し、その攻撃に耐えながら剣を振りかざす。
「くっ…!いい加減っ…しやがれっ!!」
「キュ~ンッ」
チョコの攻撃により自分の身が傷付いてゆくのは気にする事なく、力だけはあるその腕に力を込めて、思い切りチョコを切りつけると、なんとも愛らしく情けない声を上げてチョコが倒れ、ゲイルが一匹で相手をしていたヨーヨー達もその場から消えてしまい…
「はぁ…中々…まだキツイなぁ…
ゲイル 助かった。有難う」
「キュィ!」
額から落ちる汗を拭いながらサーベルを腰に収めたイルシアは、周りを飛んでいたゲイルに手を伸ばし、腕に止まってくれたゲイルの頭を撫でながら礼を言う。
『ディル…こっちはやっと終わった…
今から迎えにそっちに行くけど 大丈夫か?』
木々に覆われた崖下を見下ろしながら、イルシアはディルにPT会話で話掛ける。
「…返事が…ない?
…まさか…」
呼びかけるが、返事が無い事に顔を青ざめさせ、マップを広げるとマーカーが崖下から移動していない事を確認して、そのまま走りだし。
「ゲイルっ!ディルの所に急ぐんだっ!!」
「キュイッ!!」
「メェェッ!!」
「グホッ!!」
「我が呼び声に答えよっ!モンスター召喚っ!バイオプラント!!」
ハイオークに向かってもふもふは頭突きを食らわせて足止めをし、ディルはバイオプラントでフェアリーフを召喚すると、ハイオークに向かわせる。
フェアリーフが攻撃をしている間、ディルはもふもふにポーションピッチャーをしながら、アシッドテラーを繰り広げていた。
相手のHPの減り具合を頭で計算していたディルは、ハイオークに向かい走り出す。
「いくぞっ!もふもふ 退くのだっ!」
「メェッ!」
「カートレボリューションっ!!」
「ガァァァッ!!」
もふもふに向かって叫び、素早く飛び退いたもふもふを確認すると、両手に重量ギリギリまで詰めた重いカートを振りかざし、ハイオークに殴りつけ、悲鳴を上げてやっとハイオークは地面へと倒れていった。
「はぁはぁ…ゲイルがいない私には、かなりハイオークはきついな…
もふもふ…大丈夫か?」
「めぇぇ~」
ディルの体力では、ハイオークの攻撃に殆ど耐えられない事を知ってのか、主人でもない自分の代わりにタゲを取り続けたもふもふを見下ろし、尋ねると、多少傷はあれど、ポーションピッチャーを貰っていたお陰か、大した事もなく、元気よく鳴いて答えるもふもふにほっと息を吐き出してその場に座り込み。
「キュイキュイッ!!」
「うわっ!!…ゲイル?」
羽音を響かせて、茂みから姿を現わしたゲイルは鳴きながらディルの懐に鳴きながら飛び込んできて、さすがのディルも思わず驚くが、飛びこんでいた物がゲイルだと分かると、表情を和らげて、優しく胸に抱いてやる。
「ディルっ!大丈夫かっ!?」
その後を追ってきたイルシアは、そこにディル達の姿を見ると、青ざめた顔で状態を尋ねて。
「あぁ なんとか大丈夫なのだよ…
イルシアこそ…随分傷だらけなのだが…」
「…ディルを探すのが優先で…治すのを忘れてた…
俺は無駄にVitがあるから大した事ない」
イルシアの姿を見たディルは、よりその顔を安心した様に歪めるが、手やあちらこちらに傷がある姿に目を見張り、その顔を見上げる。
イルシア自身はそう言われて初めて自分の傷に気付いたのか、自分の姿を見回すが、笑みを浮かべて大丈夫だと頷き。
「めぇぇ…」
「もふもふ……ちゃんと頑張ったみたいだな?」
「めぇぇ~」
擦り寄ってくるもふもふに腰を下ろしたイルシアは、その傷だらけの姿を見て、褒めてやる様に頭を撫でると、褒められた事に喜びながら尾を振り、嬉しげに鳴いてみせて。
「いきなりハイオークが出てきたのだ…
もふもふがいなければ、やられていたのだよ」
「ハイオークが?…俺の方はチョコだったけど…
俺もゲイルがいなければ、こんな傷では済まされなかっただろう…
ゲイルは強いな…」
「ゲイル…ちゃんとイルシアと戦ってくれたのだな?
良くやったのだよ?」
「キュイキュイッ!」
腕の中でゲイルはディルに褒められると、誇らしげに胸を張り、元気よく鳴いて、そんなゲイルの頭を優しく撫でてやると、甘える様に胸に頭を擦り寄せるゲイルをとっと愛おしげに抱きしめてやった…
その後、すっかり疲れてしまった二匹のホムは、主人の腕の中に抱かれたまま眠り、イルシアとディルは夕暮れのアルデバランの時計塔の前に腰掛けていた。
「もふもふはお前に良くにて、頑丈で強いホムだな」
「ゲイルもディルに似て とても賢い…それに、とても強かった」
「私のホムだからな?」
「ふふ…そうだな…
ホムって、なんだかんだと召喚者に似るもんだな…
なぁ ディル…また 一緒に狩りに行ってくれるだろうか?」
「あぁ 勿論だ…
こちらこそまたお願いするのだよ」
自分のホムを撫でながら、二人は互いのホムを褒め合い、嬉しそうに笑いながら、次の狩りの約束をして別れた。
製薬が苦手な戦闘しか出来ないケミと
戦闘が苦手な純製薬クリエ
友を互いにあまり作れない二人が親友となり
互いにそれぞれの力を付けてゆく事になる
そんな始まりの一歩であった…
[0回]
PR
COMMENT
No Title
お仕事お忙しい中、ディル誕生記念SS有難うございます~。実際ディルの誕生日(?)まだ先ですので早いですよ!!
有難うございました~~~
東雲様
これからは、もっと親しく話掛けたりして絡んでくると思いますw
その内、リョウやアル達とも親しくなっていくのでは…イクスとシオンは暫く怖がりそうですが(笑)
これからももふもふとイルシアコンビを宜しくお願いします♪