「う…ん……」
今まで感じた事の無い、暖かなモノに包まれ、なんだかとても安心する心地よい場所に、私は思わず顔をそこに寄せる。
あぁ…この暖かさは何かしら?
…って あれ?
私…もしかして生きてる…?
ゆっくり意識が浮上し、重たい瞼を微かに開けると、目の前は暗くて…
そこから顔を僅かに後へと動かすと、その暖かいモノは、人の肌だと知り、慌てて顔を上げる。
「……だれ…?」
顔を上げたそこには、気持ちよさそうに眠る一人の男。
私は裸のまま、やはり裸のままのその男の腕に抱きしめられていた。
思わず、その腕から逃げようと思ったけど、私を守る様に抱きしめた腕は優しくて、そして気持ち良くて…
私に害を与える相手では無いと本能が告げるまま、暫くその男の寝顔を見つめる。
野生的な良く焼けた浅黒い肌に、戦闘系だろうしっかりと筋肉がついた鍛えられた体。
歳の頃は20代半ばくらいだろうか。
中々に凛々しく整った、男らしい顔に、短い黒髪が良く似合っている。
「ん~う~~…お?やぁっと目ぇ覚めたか?」
「っ!?」
じっとその顔を眺めていたら、不意にその瞳が気だるそうに開き、漆黒の瞳が私を捉えた途端、優しい笑顔で囁き。
思わず固まり、言葉を発せない私に、その男は気にする事なく大きく欠伸をして。
「俺の名前はレンだ。アンタの名前は…?」
「………紫苑……」
それがその男…レンと初めて交わした言葉だった。
「丁度ゲフェの東口を通り掛かったら、ランがいきなり吠え始めてな…
気になったんで、隣のフィールドまで行ってみたら、ランがアンタを倒れてるのを見つけてくれてさ?
さっすがにあの雨の中、ズタボロになったアンタをほっとけなくて家まで連れてきたんだよ。
もうあれから四日はたつのかな?
中々目覚めないから心配したんだぜ?」
レンはキッチンで何かしらを作りながら、私を連れ帰った経緯を話してくれた。
足元には子デザのランが寝ている。
「アンタさえ見つけなければ…死ねたのに…」
ぽつりと恨みがましく寝ているランに囁けば、片目だけ開けたランはちらりと私を見ると、再び寝たフリをして。
私は深くため息を付いて、先ほど入れて貰ったお茶を口に運ぶ。
少し大き目なベットに、小さな丸テーブルと小さなタンス。
隣接した小さな台所。
簡素な造りの小さな部屋だったか、なんだかとても心地よかった。
窓から差し込む光が暖かいからかしら…?
「紫苑~ さぁ出来たぞっ
俺様特性のミルクリゾットだ!
暫くは胃に優しいモン食べないとだからな~」
「…ありがとう」
あの戦いを目にした日から始めて食べたレンが作ったミルクリゾットは、優しく甘く…私の中へと染みわたっていった。
どうしてか思わず溢れた涙に、レンは頬笑みながらそっと頭を撫でてくれたのだった…
私がレンの元で目覚めてから、一週間たっていた。
彼は教会所属のチャンピオンであり、今日も仕事場である教会へと出勤している。
彼は私の事は何も聞かず、この部屋から出ない様に言うたけで、ランと共に彼を待つのか私の日課になっていた。
ヒールと彼の看病のお陰か、私の体も随分良くなっていて、掃除や食事の支度なども出来る様になっていた。
「……やっぱり…死んだのね…」
毎朝届けられる新聞を手に取り、大きく報じられた記事に目を通す。
『悪名高き魔女 ルギアス とうとう討伐!』
『ルギアス 焼死体にて発見。自殺か?』
『城も全焼。何かの実験をしていた痕跡あり。』
『逃げたクリエイターや、仲間一味を捜索中』
その捜索中の仲間一味に私も入っているのだろう。
侵入する敵を殲滅したりもしてたし、顔を知る者もいるだろうし…
今回の事は、恐らくあのクリエイターがルギアスを裏切り、彼女を殺して、自分がしていた実験の痕跡を消す為に討伐隊を城へと入れる様に仕向けた…
そして恐らく彼の実験は成功し、最後の仕上げにこの石が必要だった…
ルギアスはこの石を内に入れる事で、魔力をこの石に蓄積する役目を担い、その代わりに自分の若さを保つ薬などをあの男が作っていた。
「多分…そんな所よね…
こんな事になるなら、もっとあの城にいる時にちゃんと調べておけばよかった…」
新聞を読みながら、なぜこんな事になったのか、考えを整理しながら、思わず深深とため息を付いてしまう。
そっと自分の胸に手を添える。
そこには確かに、あの石が脈打っている感覚がある。
何より、ルギアスの強大な魔力と、石本来の強烈な力が眠るのが分かる。
取り出せるもんなら取り出してしまいたい。
だけど…この石の取り出し方を知らない。
そして、聞かずとも本能で分かる。
この石を取り出した時が、私が死ぬ時だと…
そう…ルギアスの様に…
ぞくりと震える体を思わず両手で抱きしめる。
死ぬ事が望みだった筈なのに、なぜ今更恐れる…
自分を叱咤した時、スリっと足元に暖かなモノが当たる。
「きゅ~ん」
普段は滅多に私には懐いてこないランが私の足元に擦り寄り、心配する様に小さな声で鳴いた。
「ラン……
私は…こんな所にいちゃ…ダメなのにね…
ずっと…あの血に塗れた闇から抜け出したかったのに…
もう二度と…光の中へ戻れない身になってしまった。
レンはまるで太陽みたいな光…これ以上傍にいちゃいけないのに…
私は…まだいたいと思ってしまうの…」
「きゅぅぅ~ん」
小さな小さな暖かい存在を私は胸に抱きしめて、分かっているのに、離れたくない…
あまりに心地よいこの光の中にいたいと願う自分をどうしていいか分からず、溢れ出る涙はそのままにランを抱きしめると、悲しそうにランは泣き、私の頬を暖かな舌で舐めてくれた。
神と言う者がいるなら…今まで祈った事なの無いけど祈りたい…
どうか…もう少しだけこの場所にいさせて下さい。
初めて見つけた光なのです…
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COMMENT
No Title
一日二本アップとは凄いハイペースですね!?
裸な紫苑を裸なレンさんが抱き締めて寝てるって……まさかレンさん、意識の無い紫苑を!? ゴホン。失礼しました。
紫苑がレンさんと一緒に居る間だけでも悲しい想いをしないで欲しいと思う反面、紫苑版の独り言から察するにレンさんは亡くなる……という事に!? 人の事言えませんが、悲しくなりますね。紫苑がトーゴと幸せな未来を築ける事を祈ります!
えと、「ラキがあんたが倒れてるのを見つけてくれて」のくだりで、子デザの名前がランからラキになってます。
それでは乱文、失礼しましたー。
東雲様
レンは年上ってのもあり、そこらへんがどうも襲うのは我慢したようです(笑)
もう結果は分かってますが、レンは紫苑の初恋であり、そして死んじゃいますね…
この先紫苑にはトーゴという最愛の相手がいるので、今はもう十分レンへの想いよりは、トーゴへと想いの方が強いので大丈夫です☆
おおう!!読み返したのに間違ってた(;;)
ご指摘ありがとうございますw